【インタビュー】IPGフォトニクスジャパン 取締役 ジェネラルマネージャー 菊地淳史 氏

レーザー加工機の業界でIPGフォトニクスを知らない者はいないだろう。自動車や工作機器向けの高性能ファイバーレーザーのパイオニアとして世界をリードしてきた会社だ。しかし、意外と知られていないのがレーザー技術における垂直統合の取り組みだ。ファイバーレーザーを構成する主要コンポーネントは、アウトソーシングではなく内製化し垂直統合とすることで性能やコストをコントロールし競争力の源泉としてきた。モノづくりの現場における脱炭素社会への取り組みが活発化する中、同社の強みや今後の環境対応への貢献について取締役 ジェネラルマネージャーの菊地淳史氏に聞いた(聞き手:落合平八郎)

製品特長について

 当社の製品特長はレーザーのエネルギー効率が圧倒的に高いことです。加工用レーザーはレーザーの発振方式の違いによってYAGレーザーやCO2レーザーといったものがあり、エネルギー効率(レーザー装置の電気から光エネルギーへの変換効率)が数パーセントから10パーセント程度です。一方、当社のファイバーレーザーは50パーセントを超えるものもあります。エネルギー効率が高いほど、電気を効率よく光エネルギーへ変換しているわけですが、逆に低いと電気エネルギーのほとんどが熱エネルギーとなってロス(損失)します。他方式のレーザーからIPGフォトニクスのファイバーレーザーに置き換えるだけでずいぶんとエネルギーロスが抑えられため、加工機としての消費電力を大幅に削減できます。また、エネルギーロスが少ないので発熱を抑える冷却装置を小型化できるのも特長です。

【写真】同社製ファイバーレーザー(一例)
他方式のレーザーに比べて小型。加工機に小スペースで設置できる(同社HPより)。

工場の省エネ化に貢献

 加工機をお使いになっている工場へ訪問する機会があり、お話を聞いてみると電力消費量が課題になっているそうです。工作機器向けロボットはその機敏な動きに目が行きがちで駆動系に多くの電力が使用されているように見えますが、加工用レーザーも相当な消費電力を使っていることがわかりました。実際に当社のファイバーレーザーを納入した工場のご担当者から電気代安くなったよ、といわれたことがあります。

また、ある材料を乾かす工程でガスボイラーによる熱風を使っているそうなのですが、燃料を燃やして水を温めて熱風を作るため、大量の二酸化炭素を排出します。乾燥室へ送りこまれる熱風はすべてが材料に接触するわけではないため、効率的とはいえないように思います。これをレーザー乾燥方式に置き換えれば、二酸化炭素排出を大幅に削減することができ、工場のCO2排出削減と省エネ化に貢献できる使い方だと思います。

【写真】インバーター部品の内部(一部)。EV関連部品で通電する部位にはバスバーが用いられる。バスバー接続にはファイバーレーザーによる溶接加工が採用されている。今後EVの普及を考えるとファイバーレーザーによる溶接加工がより一層求められる(同社エントランスにて撮影)。

レーザー技術の垂直統合が強み

 創業者は通信用レーザーの研究者でした。当社が創業した後、2000年頃から加工用ファイバーレーザーに軸足を移して注力してきました。創業者はファイバーレーザーの性能・品質の向上やコストダウンをしていくために、キーコンポーネントは全て開発から製造まで内製化していくと強い思いがありました。現在ではアウトソーシングや外部調達を減らして、半導体レーザーチップの内製化をはじめ、ファイバーレーザーを構成するコア部品、伝送ファイバーや加工ヘッドを含む加工装置の製造まで、すべて内製化しています。

【写真】高出力半導体レーザーの生産工程(海外)(同社HPより)

創業者の想い

「ファイバーレーザーをツール(工具)のように」普及させることが創業者の想いであり、全社のミッションになっています。すでにアマゾンなどのネットショップでファイバーレーザーを搭載したもの(レーザーマーカーや彫刻機など)が販売されています。今はまだ産業用の加工機としてのイメージが強いですが、将来的にはDIYで使うトンカチやペンチのように誰もが使えるツールのようにしていきたいです。

本展では、菊地氏が登壇するセミナーを開催します※本講演は終了しました

2023年05月18日(木)10:00 10:45|会場:インテックス大阪|PHOTO-3

E-mobility製造におけるIRファイバーレーザによるスパッタレス溶接及びモニタリング

IPGフォトニクスジャパン(株)
取締役
菊地 淳