【インタビュー】(株)巴川製紙所 iCasカンパニー ファイバーマテリアル事業部 営業グループ グループマネージャー 吉野 達也氏

 巴川製紙所の歴史は、紙から始まりました。1914年に電気絶縁紙の国産化をはじめ、常に時代に先駆け、日本初・世界初の技術を提供。紙を抄き、塗り、貼り、砕き、その過程で培った化学の力に加え、熱、電気、電磁波という物理の力を掛け合わせ、新たな挑戦に取り組んできました。日本のものづくりをけん引してきた技術を持って、サステナブルな新素材開発に挑戦しています。この度は巴川製紙所とエフピー化成で共同開発したグリーンチップ® CMF®が切り拓く未来、セルロースファイバーの特長や導入実例、今後の展望を、(株)巴川製紙所 iCasカンパニー ファイバーマテリアル事業部 営業グループ グループマネージャー 吉野氏にお伺いしました。(聞き手:プラ太郎)


技術の掛け合わせで実現した新素材

グリーンチップ® CMF®は、紙の主成分でもある天然ポリマーであるセルロース繊維を、プラスチックに混ぜ込んだバイオマス複合樹脂です。巴川製紙所では、トナーや半導体・ディスプレイ関連、機能性シート、セキュリティメディアといった事業で培ってきた技術を掛け合わせることで、グリーンチップ® CMF®を開発しました。プラスチック製品をグリーンチップ® CMF®に置き換えることで、石油由来のプラスチック使用量を削減、CO2の削減、循環型社会実現に貢献します。

【写真】グリーンチップ® CMF®のペレット写真

【プラ太郎】
バイオマス系樹脂の研究開発にいたる背景は、どういったことからだったのでしょうか。

【吉野氏】
自社技術(「抄く」 「塗る」 「貼る」 「砕く」)をもって、新しい価値を提供していくということでスタートしました。既存技術の処方・プロセスを活かして、サステナブルな社会実現に挑戦しています。

【プラ太郎】
グリーンチップ® CMF®の開発で難しかったポイントはどんなところですか?

【吉野氏】
グリーンチップ® CMF®は、特殊混練製法を用いて製造することで、セルロース繊維を高分散、高配合し、配合後の樹脂流動性の向上を実現した樹脂です。また、セルロース繊維を骨材として高強度を可能にします(引っ張り強度、曲げ強度、曲げ弾性率、荷重たわみ温度など機能UP)。他方、同種の材料で弱点と言われる耐衝撃性の向上も改良を繰り返すことで実現しています。さらに、幅広いニーズに応えるべく、難燃グレードもラインナップしています。また、セルロース系の樹脂は甘い匂いが特徴ですが、その匂いを抑えることも可能にしました。

【プラ太郎】
グリーンチップ® CMF®は、粉砕リサイクルができますか。

【吉野氏】
粉砕と成形を5回繰り返した後、試験片を評価したところ、ガラス繊維含有樹脂に比較して減衰率は優位な結果が出ました。セルロースが持つしなやかさが良い結果に繋がったものです。

【図】セルロース60%配合し機能UP(赤字の倍率は、PP100%と比較)


グリーンチップ® CMF®の特長と導入実例

グリーンチップ® CMF®の最大の特長は、石油由来の樹脂に比較しても劣らない高機能性です。強度と軽さを兼ね備え、柔軟かつ可塑性が高く、複雑な形状や曲面にも適応しやすい。成形工程において、成形機や金型への影響は少ないため、既存型を使用しグリーンチップ® CMF®を導入できるメリットがあります。植物由来のグリーンチップ® CMF®は、日本食品分析センターや欧州での食品と接触する樹脂に対する試験に適合しており、人体にも安全な素材であるため、マグカップやカトラリーなどに導入されています。

【写真】:(採用事例)アウトドアショップSWEN様(株式会社エンチョー様):マグカップ

【プラ太郎】
グリーンチップ® CMF®の特長はどんな点ですか。

【吉野氏】
マイクロサイズを主とした繊維長及び径を均一に分散することで、高機能を実現できます。セルロースを含有していますが、流動性は確保しており、薄肉形状も成形可能です。またセルロース繊維により成形品がヒケにくくなり、寸法安定性は向上し、成形サイクルの削減にも効果的です。

【プラ太郎】
グリーンチップ® CMF®はどんな活用事例がありますか。

【吉野氏】
比較的開発期間の短い商品から順に活用いただいています。キャッシュトレーや、食器具、アウトドアグッズなどに導入いただいています。成形条件を調整することで、表面に独特な質感を表現できることもポイントです。

【プラ太郎】
サステナブルな商品開発には、環境保護に対する関心度の高いメッセージを付加できますね。モノにストーリー性を持たすことで、価格以上の価値を提供できますね。

【吉野氏】
グリーンチップ® CMF®はバイオマス度55%のバイオマスマークを取得しています。また、マスターバッチの様に割合を調整して使用いただけます。


セルロースファイバーの今後の展望

サステナブルなものづくりが世界的に叫ばれている現代において、バイオマス樹脂の新たな製品カテゴリーや産業分野への導入が期待されています。

【プラ太郎】
グリーンチップ® CMF®は、今後どんな分野に活用されていきますか。

【吉野氏】
現在は、ポリプロピレンとセルロースの複合樹脂をラインナップしていますが、今後はポリエチレン、ポリ乳酸、ABS、ポリカーボネート、ゴム系素材等と混合することで、機能向上や用途の拡充が見込まれます。
また、車載分野、家電分野、建材分野などの業種は、様々な検査や検証が必要なため、中長期的な研究開発を進めています。
今後、リサイクルが可能なバイオマスプラスチックの導入を通して、サステナブルな社会を実現していきます。

【プラ太郎】
様々な業界で取り入れられることで、循環型のより良い社会を実現できますね。
本日はありがとうございました。

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