「溶接(ようせつ)」。この言葉を聞くと町工場で火花を散らしながら加工しているイメージをもつだろう。しかし、いまこの溶接業界が熱い。とんでもなく熱いのだ。従来の加工技術の延長上にありながらその進化の姿はモノ作りの根底を変えてしまうインパクトをもつ。そのカギを握るのが「3D積層造形技術」(金属AM)だ。今回、業界のキーマンにインタビューし、3回にわたって紹介する。今回は長らく業界のけん引役のひとりであり、本展併催「AM技術の進化と普及拡大に向けて」パネルディスカッションを企画した平田 好則氏(一般社団法人 日本溶接協会 3D積層造形技術委員会 委員長)に聞いた。(聞き手:落合平八郎)

平田さんは長くこの業界に携わってこられました

たとえば鉄板と鉄板をつける時に開先(かいさき:溝状の窪み)の部分に、1万度以上のアーク放電を発生させ、溶けた金属を埋めてつないでいく作業が溶接だ。世界的には第二次大戦後の欧州復興を目的に欧米の13か国からなる国際溶接学会が1948年に設立され、その後日本も加盟した。現在では53か国が加盟している。いわば溶接は世界共通の技術であり、その国際資格もある。大きな節目は1980年の「ロボット普及元年」と呼ばれた年だ。自動車メーカーを中心に産業用ロボットが導入され、溶接業界も活発化した。この時期にインバータ電源が開発された。わたしもこの分野には深く関わっており、パルスアーク溶接と呼ばれており、電流を周期的に変化させることによってスパッタ(溶接時の火花)を低減させる方法だが、溶接現象の機構解明に向けた実験・数値解析など基礎的な研究を行ってきた。

この溶接業界において金属AM(3D積層造形技術)という言葉を耳にしました。

つなぎ合わせる「溶接」と何が違う?

何も突拍子もないものがポンとできてきたわけではない。従来の溶接技術の延長上にあるものだ。開先のなかに溶接金属を埋めるのと同じようにその溶接金属を積み上げる技術であり、溶かした溶接金属を盛り上げて造形物として形状化する。これを実現するためにはインバータ制御だけでなく、熱源であるレーザーの採用などこれまでの溶接技術の進化があってこそ。昔は高出力の熱源を準備するのに危険な思いをするなど一苦労した。こうした積み重ねの上にこの金属AMがある。

((一社)日本溶接協会のご厚意による)

溶接技術を進化させるには技術の伝承も必要では?

(公社)全国工業高等学校長会が主催する「高校生ものづくりコンテスト全国大会」溶接部門出場に向けて、(一社)日本溶接協会の全国9地区の溶接技術検定委員会や各都道府県の指定機関が、高校生の教育訓練などを支援している。これからの日本のものづくりを支える溶接技術の普及を図り、製造業の担い手育成を支援することが狙いだ。実際に溶接したものをみると「若い人はほんとにすごいな」と感じさせられることがあり、溶接技量を伝承していく必要性を感じる。一方で、最近ではコンピューターを使って新しい道具も扱う必要が出てきた。個人の技量を磨きながら、DXとの融合といった教育訓練が必要であり、一つのことを探求して深堀し、一方で幅広い分野のことがわかる人材(多能工)が求められる。取っ掛かりとなる入口はどこでもいい。このDX化が金属AMへの流れへとつながっている。新しい溶接技術の世界を切り拓く若い人材に期待したい。

【インタビュー】(一社)日本溶接協会 3D積層造形技術委員会 委員長 大阪大学 名誉教授 平田好則 氏

本展では、平田氏(他、計22名)が登壇するセミナーを開催しました

AM(3D積層造形技術)特別講演

~ AM技術の進化と普及拡大に向けて ~

パネルディスカッション(登壇者 計22名)
企画:(一社)日本溶接協会

<登壇者>
(一社)日本溶接協会 3D積層造形技術委員会 委員長 平田 好則
(一社)日本溶接協会 3D積層造形技術委員会 副委員長 石出 孝
(株)NTTデータザムテクノロジーズ 酒井仁史/(株)IHI 永田佳彦/川崎重工業(株)渡邊健太郎/愛知産業(株)木寺正晃/森村商事(株)中室正晴/大同特殊鋼(株)山下正和/日揮グローバル(株)吉本直広/住友精密工業(株)ペトロビッチ マリオ/ダッソー・システムズ(株)梅崎敦/大陽日酸(株)山口祐典/OneAdditive(同)辻大輔/タマチ工業(株)米内淨…など計22名登壇!

※本講演は終了しました。