フラットパネルディスプレイの主役といえば液晶だ。かつては日本の企業が世界を席巻した電子デバイスだ。日進月歩の技術進化のなかOLEDなど新しい技術が出現しても「液晶の次も液晶」といった経営者もいた。しかし、今や産業界のディスプレイに対する関心は低下、日本企業の存在感も薄くなっている。こうしたなかで「まだ液晶をはじめとしたディスプレイにもできることがある」と語るのは、エレクトロニクス業界に精通するみずほ証券の中根康夫氏だ。技術革新でディスプレイ業界の再生を期待する熱い思いを聞いた。(聞き手:落合平八郎)

まだ液晶にもできることがある

今までのディスプレイの技術革新は大型化と高精細化の追求を液晶がけん引してきた。しかし需要先であるテレビやパソコン、スマホのマーケット拡大も上限が見えつつある状態にあり、液晶の先行きについて厳しい見方をされることが多い。しかし、技術革新こそが次の新しいマーケットを作っていくことに変わりはない。例えばOLEDも20年近くかけて今日のマーケットを形成するに至った。今後は8世代工場への投資を通じて、スマホからタブレット、ノートPCへの展開も本格化するとみている。同様にマイクロディスプレイが非常に面白い。ここは現時点では液晶とOLEDが拮抗している分野。液晶の精細度は現在800ppiレベルだが、1600ppiぐらいまでは引き上げられる。高精細化のモバイル技術とテレビで培ったローカルデミング(部分駆動技術)技術など液晶技術が活かすことができる。OLEDは精細度では液晶に及ばないが、それも23年1月発売のSony PSVR2(OLED採用)の精細度は850ppiに達すると見られるうえ、薄型軽量であること、コントラストが高く没入感を得やすいなどの強みを持っている。ここに、デジタル一眼カメラで用いられてきたEVF(電子ビューファインダー)にも使われているマイクロOLED(シリコンウエハ上にOLEDを形成。高い輝度と3000ppi以上の精細度)や、マイクロLEDが挑戦状を叩きつけてくる構図。2025年辺りの次世代機種への展開が楽しみである。

かつては技術がアイデアに負けていた

過去、3Dディスプレイのブームが何回かあった。しかし、世の中が求めているアイデアに応えられるずに普及しなかった。技術がアイデアに負けていた。しかしそうした技術がアイデアに追いつくフェーズがこの5年から10年で起こるとみている。たとえばVR(仮想現実)ゴーグルもそのディスプレイの技術革新とともに、VRを支える周辺技術やアプリケーションが活発化している。こうした動きはスポーツやゲーム、音楽(ライブやPV)の世界で先行している。過去の液晶技術を振り返ってみても最初の5年ぐらいは市場の立ち上げに苦労してきただけに、新しいアプリケーションの創出には長い目でみていく必要があろう。

世の中の期待に応えられる技術へ

かつてディスプレイはマンマシンインターフェイスとして情報を伝達する手段のひとつだった。今後は、ディスプレイとその周辺技術の融合により、これまで経験したことのない体験価値を生み出すことになる。そのひとつがメタバースかもしれない。ディスプレイ技術が新しい革新のフェーズを迎えている。世の中の人たちの期待に応えられる技術がようやく揃え始めたという感じだ。前述のマイクロOLEDやマイクロLEDも活発化してきており、こうした技術革新で新しいアプリケーションが広がっていき、ディスプレイの業界も再生していくのではないか。

【インタビュー】みずほ証券 株式会社 中根康夫 氏

本展では、中根氏が登壇するセミナーを開催しました

2022年12月08日(木)|15:15 ~16:00|FTJ-7

フラットパネルディスプレイ(FPD)業界の最新見通し

みずほ証券(株)
エクイティ調査部 グローバル・ヘッド・オブ・テクノロジー・リサーチ/シニアアナリスト
中根 康夫

※本講演は終了しました。