【インタビュー】旭化成 株式会社 モビリティ&インダストリアル事業本部 企画管理部 サステナビリティ推進室長 竹山英伸 氏

今年1月、旭化成が開催したサステナビリティ説明会で1枚のスライドが注目を集めた。「唯一生き残るのは、変化する者である」―― 進化論のその言葉に、目まぐるしく変化する社会情勢に対する該社の健全な危機感と長年醸成してきたモノづくりのDNAをさらに覚醒させようとする決意が透けて見える。モビリティ&インダストリアル事業本部でサステナビリティ事案を横断的に取りまとめる、企画管理部 サステナビリティ推進室長の竹山英伸氏に取り組みを聞いた。(聞き手:落合平八郎)

全社挙げてカーボンニュートラルの実現に挑戦

 当社は、2050 年にカーボンニュートラルの実現を目指し、そのファーストステップとして2030年までに当社のGHG(Greenhouse Gas、温室効果ガスのこと)排出量を、既存技術を中心として 2013 年度比 30%以上削減することを目指しています。また、社外の有識者の意見に基づくLCA観点での独自試算のもと、2030 年にはGHG 削減貢献量を現在の2倍以上とすることを目標としています。この実現に向けて製品のライフサイクル全体での環境負荷低減を重視し、環境に貢献する製品を拡大していきます。非常に高いハードルですが、その対応は急務です。これらカーボンニュートラルに関する技術領域では、我々がこれまで蓄積してきた長年にわたる化学の知見が鍵になるとみており、社会に貢献できるように着実にがんばっていきます。

プラスチックエンジニアリングの新しい資源循環の取り組み

 2022年4月にプラスチック資源循環促進法が施行されました。これは、プラスチック製品の設計から販売、廃棄物の処理という流れのなかで従来の「3R」(リデュース、リユース、リサイクル)の取り組みに加え、プラスチック製品等の原料をバイオマスプラスチックなどの再生可能資源に切り替える「Renewable」を進めてサーキュラーエコノミーへの移行を推し進めるためのものです。当社でも資源循環可能なバイオマス由来の素材を使ったプラスチック材料の開発に注力しています。

 一方で従来にないまったく別のアプローチで資源循環の取り組みも行っています。昨年、再生プラスチックの資源循環を可視化するデジタルプラットフォーム開発プロジェクト「BLUE Plastics」を立ち上げました。これは二次元コードを用いて再生プラスチックを利用した製品のリサイクルチェーンの可視化やブロックチェーン技術を応用して原材料のリサイクル比率を証明するものです。これによって再生プラスチックを安心して利用できる環境を整えることができるとみています。このプロジェクトでは、リサイクルチェーンに関わる企業から消費者まで、さまざまな方が利用できる横断的なプラットフォームの社会実装を目指しています。

【図】「BLUE Plastics」プロジェクトにおけるプラスチック資源循環のイメージ(同社提供)

サステナブルマテリアル展に出品する製品群について

 当社は「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の3つの事業領域があります。我々は「マテリアル領域」の中にあるモビリティ&インダストリアル事業本部に属しており、安全・快適・環境に優しい次世代モビリティの実現に貢献する製品を創出しています。今回のサステナブルマテリアル展にはマテリアル領域内にある環境ソリューションやライフイノベーションの事業本部からも、脱炭素社会に貢献する環境ソリューションやデジタル社会で求められるニーズに寄与する各種材料を多数出展する予定です。

 今回展示する当社の主力商品のひとつ、ポリカーボネートジオール「デュラノール™」は、高機能ポリウレタン樹脂の原料として耐加水分解・耐熱・耐薬品性等の耐久性に優れており、合成皮革や塗料等、幅広い用途でご使用いただけます。なかでも当社が独自開発した液状タイプの製品は固形タイプに比べ製造工程に必要な有機溶剤を削減できるため、環境に配慮した製品設計が可能です。特に耐久性においては要求性能の高い分野でのご要望に対応できるよう、新規開発にも注力しています。

 また、UDテープと呼ぶ、重厚な金属部品の樹脂化提案向けに熱可塑性樹脂コンポジット材料のラインアップ化を推進しています。UDテープは一方向に引き揃えた炭素繊維にポリアミド樹脂を含浸させたテープ状の材料であり、幅広い領域における金属部品の樹脂化による軽量化によって製品使用・輸送時における温室効果ガス削減に貢献します。また、UDテープを加熱しながらマンドレル(軸芯) に連続的に巻き付けるワインディング工法により、高強度のパイプ部品や補強用リング状成形体を作製することができます。

 今回の展示会には、関西に本社がある主要なお取引先も多く来場すると見込んでおり、普段お目にかかれない方々にお会いできる機会が得られるため、しっかりと展示対応できるよう準備を進めています。コロナ禍でオンラインによる会議や展示会が当たり前になりつつあるなか、こうした直接対面する場は出展者サイドからすればリードの獲得にもつながり、また現場の生の声が聞けるのでメリットが大きいです。こうした付加価値の高い当社製品を積極的にご提案してまいります。

【写真】左:液状のポリカーボネートジオール「デュラノール™」右:炭素繊維強化ポリアミド樹脂 UDテープ(開発品)