【インタビュー】キリンホールディングス(株)R&D本部 パッケージイノベーション研究所 技術開発ユニット 包材創発グループ 主務 大久保 辰則氏

 キリンホールディングスはR&D本部内に3つの研究所を有しており、その1つに通称「パッケ研」と呼ばれるパッケージイノベーション研究所がある。同社グループ商品のパッケージ全般に関する開発を担っており、その源流は約60年前のビールのガラス壜(びん)の開発にまで遡る。現在、約50名の社員が所属しており、彼らは家電や自動車、包装資材メーカーなど、さまざまな経歴を持つ社員がいる。同社にとって容器や包装資材における環境対応は重要なテーマのひとつであり、組織の名前通り、「パッケージからイノベーション」が期待されている。同研究所の大久保辰則氏に聞いた(聞き手:落合平八郎)


なぜ、「パッケージを研究」するのですか?

 お客様の購買要因のひとつにパッケージが挙げられます。たとえば2016年にリニューアル発売した「キリン生茶」(「日本パッケージデザイン大賞2017」にて金賞受賞)は、ガラス壜をイメージして作った特徴的なデザインなどが好評で工場の生産や商品の供給が追い付かないほどでした。お客様に「この商品いいね」と思っていただくことで次の購入にもつながります。そのためにはマーケティングも必要です。研究所という立場でありながら開発からマーケティングまで広範囲にわたる業務に関与しており、大変やりがいのある仕事です。

パッケージを開発する上で、既存のものを社外から購入するだけでは商品として他社との差別化ができません。見た目だけではなく容器の使いやすさやリサイクル、廃棄のしやすさといったお客様が求めるニーズが社内情報としてあるので、それに基づいてまずは自分たちから発案していきます。その上で、お客様とサプライヤー様の間にある当社がうまく取り持つことで、イノベーションを起こし、お客様にとって意義のあるパッケージを開発しています。

【写真】インタビュー中の大久保氏(右)と永谷氏(左)同研究所に所属する永谷氏もプリンターや航空部品の設計といったキャリアを持つ。本展示会のセミナー講師として大久保氏とともに登壇する。


パッケージの環境対応についてお聞かせください

 お客様に品質の高い状態で商品をお届けするためにも、パッケージは必要不可欠です。さらに最近ではパッケージの環境対応がますます重要になっています。当社グループのプラスチックを使用した商品のうち、約8割がペットボトルの主材料であるPETです。ペットボトルは、当社含めて一般的に「メカニカルリサイクル」という手法で素材を再利用しています。使用済みのペットボトルを回収して選別、粉砕、洗浄した後、高温で処理することで内部に含まれる不純物を揮発させながら除去する方法です。これにより石油由来樹脂の使用量が大幅に低減できています。

ただ、市中から回収した一部のペットボトルにはさまざまな異物が含まれているため、再生PET樹脂の品質が維持しにくくなり、再生の回数に限界があるといわれています。そのため当社では化学メーカーの三菱ケミカル様と共同して「ケミカルリサイクル」に取り組んでいます。これは使用済みペットボトルを回収して選別、粉砕、洗浄した後、化学分解処理を行いPETの中間原料まで分解、精製したものを再びPETに合成する方法です。素材を構成する高分子の鎖を切って不純物を取り除いた後、再び鎖をつないで元のPETと同等の品質に戻すことができます。こうすることで再生PETの品質が維持でき、何度でも持続して使用できます。また、ペットボトル以外のPET製品、例えば卵のパックや食品のトレーなども再生することが可能です。

この資源循環の仕組みを軌道に乗せていくためには、様々な企業様や自治体様などと一緒になって取り組む必要があります。今回、サステナブルマテリアル展の専門セミナーの講師をお引き受けしましたが、「明日からはペットボトルを分別して洗ってから捨てよう」と共感していただける人がひとりでも増えれば嬉しい限りです。

【写真】ペットボトルのキャップを再生し、化粧品の容器に採用。ペットボトル本体だけでなくキャップも重要な資源。キャップの印刷を専用機器で除去した後、粉砕してフレーク状にし、溶解してペレット状に。その後、ペレットを再び溶解して成型する。右の化粧品のスパウト部(吐出口)に採用された。


プラスチックが循環し続ける社会に向けて

 2019年に「キリングループ プラスチックポリシー」を策定しました。そのなかでペットボトルの資源循環について日本国内におけるリサイクル樹脂の割合を2027年までに50%に高めることを目指す、としています。この資源循環を推進するためには、良質な使用済みペットボトルを効率的に回収することが不可欠であり、国や地域、業界団体等と連携しながら進めています。

また、環境ビジョンでは2050年までに石油由来の素材からリサイクル材および植物由来素材に100%切り替えるという目標を掲げています。研究を進める中で迷った時にはこの目標に立ち返り、その方針に則っているかどうか確認するようにしています。2050年はずいぶん先だと思われがちですが、今からその種まきは必要です。例えば、一部の用途のペットボトルの内側には品質保持のためにバリア材を施していますが、機能面の評価・検証や人体への影響がないことを示すエビデンスの取得、安全性に配慮した製造、食品衛生法など関連法規のクリアなどが必要であり、その実用化には複数年の期間を要します。研究室レベルの実験から実用化に至るまでには相当の時間が必要であり、2050年はそれほど遠い話ではないと思っています。これからもパッケージを通じた将来のイノベーションに繋がるようなことをやっていきたいです。

【写真】ール製造時の副産物から作られた化粧品包材
昨年、化粧品・健康食品メーカーのファンケル社と共同で開発。化粧品包材に石油由来の原料を使用せず、植物由来のヘミセルロースを採用した。
(左)「キリン一番搾り生ビール」製造時の副産物、ビール仕込粕」
(左下)ビール仕込粕由来ヘミセルロース樹脂(精製調整前)
(真中)ビール仕込粕由来ヘミセルロース樹脂(精製調整後)

本展では、大久保氏・永谷氏が登壇するセミナーを開催します
※本講演は終了しました


2023年05月19日(金)|11:45 ~12:30|会場:インテックス大阪|SUSMA-6
キリングループの環境への取組みと副産物を用いた化粧品包材の開発

キリンホールディングス(株) R&D本部 パッケージイノベーション研究所
技術開発ユニット 包材創発グループ 主務
大久保 辰則
キリンホールディングス(株) R&D本部 パッケージイノベーション研究所  
永谷 明子