【インタビュー】三洋貿易(株)事業開発室 ファインケミカルグループ 海老沢 康 氏

 戦後まもなくの財閥解体に伴い1947年に設立された三洋貿易株式会社。当時の日本にはなかった合成ゴムなどの化学品の輸入からビジネスがスタートした専門商社だ。現在ではゴム・化学品の原材料に加え、自動車関連部材、およびバイオマス・粉体機械や各種分析・試験装置を主力商品としている。該社の強みは長年にわたって培った取引先との信頼関係と調達力だ。早くから海外に拠点を設けて国内の顧客からの要望に合ったものを探して輸入してきた取り組みは、企業理念に基づくスローガン「最適解への挑戦」を実践し、資源の少ない日本における産業の発展に少なからず貢献してきた。一方、顧客からの要望だけでなく、5年、10年先のビジネスになる種にも着手するなど、新しいチャレンジを推進中だ。海老沢 康氏に聞いた(聞き手:落合平八郎)


海洋プラスチックを再資源化したものを日本に輸入しているそうですね。

 ペットボトルやポリ袋などプラスチック廃棄物が海に漂流し、自然環境によって小さなプラスチック、いわゆるマイクロプラスチックに変化します。海洋生物がこれを食べて食物連鎖を介して他の生き物に伝搬されることがわかり、世界的な問題となっています。当社はこの問題に着目し、その原因であるオーシャンバウンドプラスチック(正しく廃棄物処理・管理されず、海岸から50 km以内の陸地に廃棄されたプラスチック)を100%アップサイクルする企業であるTide Ocean(タイド オーシャン)社とライセンス契約し、高品質な再生プラスチックを日本市場に輸入しています。海洋ゴミの約80%は陸から流れたものといわれており、海岸に近い陸上にある廃棄されたペットボトルなどの回収をタイ、インドネシア、フィリピンの3か国で行っています。すべて地域の人たちの手作業によって回収されており、雇用の創出や公正な賃金の支払いにも貢献しています。

【写真】陸上に廃棄されたプラスチックは#tideのロゴが入った袋に回収(同社提供)海洋美化や環境保全に加え、途上国の雇用創出にも貢献できる。海洋に流れたプラスチックを回収するのは困難であり、海外に近い陸上で廃棄されたプラスチックを回収することで、そのゴミが海洋に出ないように取り組んでいる。


どういう製品へアップサイクルされているのですか?

 この再生プラスチックを「#tide ocean material」と呼んでいますが、現在PP、PE、PETの3種類で展開しています。オーシャンバウンドプラスチックを使用しない通常の再生プラスチックと比較しても品質は遜色なく、容器や繊維、自動車部品などの用途への採用を期待しています。また、CO2排出量は従来品と比べ80%少なく環境に優しいプラスチックです。PETに関してはペレットを化学繊維(ヤーン)にしてファブリック(生地や織物)に加工して日本の顧客に提供しやすい状態にしています。先日、アパレル関係の展示会に出展したところ、多くのお問合せをいただいており、手ごたえを感じています。またこの加工したものはすべてPETでできているのでリサイクルしやすいのも特長です。現地で回収されたプラスチックはグローバルリサイクルスタンダード(GRS)の認証を受けており、リサイクル含有物の検証もされています。またトレーサビリティがないと顧客に安心して使っていただけないのではないかということで、ブロックチェーンで管理してQRコードなどでその履歴を追跡できるような仕組みにも取り組んでいます。

【写真】#tideを使った素材
ペレット状の#tideから繊維状に加工(中央上)にすることでアパレルの素材として採用できるほか、表面をエンボス加工した本革調ポリエステル表皮(QUARTECHⓇ)にもできる(中央)。自動車や家具などへの採用を期待している。ポリエステル100%でできているのでリサイクルも容易だ。


今後の取り組みについてお聞かせください。

 ようやく日本の顧客に提案できるような素材が揃ってきたのでタッチポイントを増やして提案していきます。今回の「第3回[関西]サステナブルマテリアル展」の出展もその取り組みのひとつです。ただ、現地で人手による作業でプラスチックを回収していることもあり、コストはバージン材に比べて高いです。一方で、#tideを使った最終製品のストーリーやブランディングにもお役に立てると思います。世界的にマイクロプラスチックの生体に与える影響が問題視されており、その原因となる海岸に近い陸上のプラスチックの回収することに加えて、公正な賃金の支払いを管理しながら途上国の雇用創出にも寄与している取り組みはとても意義のあることです。環境への取り組みが一層重要になってくるなかで当社の強みである調達力を生かし、様々な商品に#tideの材料が採用されように頑張っていきたいです。

【写真】#tideを使った最終商品やそのサンプル
身近な商品に採用されることで、海洋プラスチックへの意識が高まり、すこしでも地球の海がキレイになることを期待したい。