[特別インタビュー]「ビジネスパーソン必読。識者に聞く!第3弾」
インタビュー:家電ライフスタイルプロデューサー 神原サリーさん

 わたしたちの身の回りにある家電製品。快適で便利な日常生活を過ごす上で欠かせない存在です。いま、その家電業界では環境配慮など社会のニーズやZ世代に代表される消費者の変化に対応した動きが活発化しています。家電ライフスタイルプロデューサーとして雑誌やテレビで活躍されている神原サリーさんは、「Z世代の価値観がパーパスを意識する企業姿勢に大きく影響している」という。(聞き手:落合平八郎広報事務所)


社会の変化にメーカーが気づき始めた

― 家電製品の環境対応に新しい動きがあるそうですね。

その事例のひとつがガラスドア冷蔵庫です。ガラス板をドア表面に貼り付けることで見た目がキレイで高級感があって傷がつきにくいことから好評で、10年ほど前から販売されるようになりました。一般的に使用済みの冷蔵庫はリサイクル工場で粉砕されますが、ガラス板が採用されたものは分別処理が難しいことから、ドア部分は産業廃棄物として処理される場合があったそうです。そこであるメーカーは、ガラス板とドアを分離する特別な装置を開発することで、リサイクルできるようにしました。作って高く売れればそれで終わりではなく、使用済み品が廃棄される時期に合わせてリサイクル装置を開発するという発想です。こうした動きは今までなかった動きだと思います。

もうひとつの事例は掃除機です。従来の素材で設計した新製品とは別に、リサイクル素材を本体の各部に採用した2つの新製品を同時にローンチしたところ、リサイクル素材を多く使用したモデルが非常に高い評価を受けたそうです。当初は、リサイクル素材品素材のほうがコストもかかり、販売価格が高くなることから、店頭販売ではなくオンラインでの販売を考えていました。しかし、販売店のバイヤーからは「なぜ店頭販売しないのか」との要望が多く寄せられたそうです。


Z世代が新たなライフスタイルを作る

― Z世代の消費者層が注目されていますが、製品開発面への影響は?

コロナ以降、世の中の消費が色々変わってきている感じがします。特に、これからのメインの消費者になっていくZ世代(1990年代中盤から2010年代序盤までに生まれた世代)と呼ばれる人たちの価値観を捉えないことには、家電に限らず魅力ある製品は作り出せなくなるでしょう。この世代の人たちの考え方の特徴は、エシカル商品(人や社会、環境を意識して作られた商品)に代表されるもので、製品の購入やサービスの利用には大義名分があります。普通に作るより実はコストがかかったりして決して安くはないのに、それを作る人たちが幸せであるかとか、そのものに自体に意味があるとか、環境にやさしいとか、そういうところを全部見極めて納得して買っています。

こうした動きをメーカーの商品企画の人たちも気付き始めていて、その世代に照準を当てた製品が出始めています。毎年優れたデザインの物事に送られるグッドデザイン賞のべスト100に選ばれるようにもなってきています。企業が「パーパス」(社会における企業や組織の存在意義のこと)という言葉を使い始めていますね。企業姿勢も変わり始めており、社会的な目線を踏まえた製品づくりになってきています。


家電はライフスタイルの変化で進化する

― Z世代のライフスタイルが家電製品にどのような影響を与えていると考えますか。

テレビコマーシャルで、大人と子供が家族団らんで出てくるシーンを見かけますよね。平均寿命が80年余りとして、子供が生まれて大きくなる20年位は一緒に過ごすかもしれませんが、残りの60年余りは一緒にいない時間のほうが長い人も多いかと思います。家族団らんは高度経済成長期のイメージの名残であり、暮らしがずいぶんと変わってきて、最近ではおひとり様用の家電が人気を集めています。シンプルだけれど機能が際立っていて便利なのが特徴です。こうしたZ世代に対応した商品は使い勝手に優れていたりするので、高齢者にもぴったりなものも多いのです。

たとえば、自動計量IH炊飯器。無洗米が入る米びつと水タンクを備えていて、自動で計量して炊いてくれます。コーヒーメーカーのような感じです。以前ならたくさん炊いておいて何日かに分けて食べていたこともあったと思いますがあまりおいしくないですよね。これなら必要なお米と水を0.25合刻みで自動的に計量してくれるので、常に安定しておいしいがご飯が炊けます。長時間保温する必要もないので省エネの観点でも優れています。身の回りにある家電がどんとんと省エネ化が進むと、そのうちにポータブルソーラーパネルによる太陽光発電のエネルギーで十分賄えるようになっていくと思います。Z世代はSNSが当たり前で育ってきたので、常に情報を取りながら合理性のあるものを選んでいます。暮らしの変化と新しい消費者の台頭でこれからの家電も変わっていくのだと思います。


素材の展示会「高機能素材Week」はビジネスマッチングの場

― この展示会にはすごく興味があるとのことですが、どういったところに関心を持ちましたか?

大手メーカーにはデザインチームという組織があります。いつも未来の姿を念頭に置きながら将来のライフスタイルを思い描いています。単に製品のデザインだけでなく、例えば環境配慮型製品であれば、それにふさわしい素材はどういうものなのかを調べるなど、未知の発見や新しいアイデアにワクワク感を抱いています。中小のメーカーの企画開発チームも同様です。しかし、思い描くような理想的な素材にはそう簡単に出合えません。

そのヒントが得られる場として活用できるのが、この「高機能素材Week」のような展示会かもしれません。多数の素材メーカーが出展しているので情報収集の場として活用できそうです。机上で議論していても探し当てるのは大変で、商社さんなど関係者に頼むにしても容易ではありません。この展示会が新しい発見やアイデアが生まれる契機となるビジネスマッチングの場として利用されることを期待しています。社会の大きな変化を受けて幅広い分野で活動していくためにも自らの感度を高めて来場してみてはいかがでしょうか。

[Profile]

神原サリー(かみはらさりー)
新聞社勤務、フリーランスライターを経て、家電ライフスタイルプロデューサーとして独立。「企業の思いを生活者に伝え、生活者の願いを企業に伝える」べく、東京・広尾の「家電アトリエ」をベースにテレビやラジオ、雑誌やウェブなどさまざまなメディアで情報発信中。家電を「感動ベース」で語れる担い手として、その独自の視点にメーカーの開発者やマーケティング担当者のファンも多い。

[インタビューを終えて]

神原サリーさんの家電アトリエで取材させていただきました。まるで家電量販店状態。でも、ひとつひとつに愛着があるそうです。インタビュー中、カメラマンの手の動作に反応してハンドサインで動く扇風機が「誤動作」してしまい、「この子はねー」とまるでわが子の話をしている姿が印象的でした。(落合)