【インタビュー】ゲルダウ グラフェン社 CEO アレクサンドル・ジ・トレド・コヘア氏

 米国やカナダ、ブラジル、アルゼンチン、メキシコなどで幅広く事業を展開するアメリカ州最大の老舗鉄鋼メーカー、ゲルダウ。2021年にそのグループ会社として設立されたゲルダウ グラフェンは、グラフェンなどの炭素系ナノ材料を使用した世界初の工業規模グラフェン強化プラスチックマスターバッチ「Poly-G」を開発。グラフェンは2004年に発見され、2010年にノーベル賞を受賞した新素材で、強度と硬度に優れ、高い電気伝導性と熱伝導性、比表面積が大きいなどの特性を持つことから様々な分野での活用が期待されている。ゲルダウ グラフェン社CEOのアレクサンドル・ジ・トレド・コヘア氏(以下、アレックス氏)に、「Poly-G」の特性とその応用可能性について伺った。(聞き手:林 諒)


「Poly-G」の商品特性を教えてください

 「Poly-G」は、グラフェンを添加したポリエチレン(以下、PE)またはポリプロピレン(以下、PP)のマスターバッチで、プラスチック製品に1〜3%添加すると最終的な製品の機械的特性が向上します。特に現行製品は押出成形で生産されるフィルムやフレキシブル・パッケージ、シートの製造に適し、原料使用量を最大30%削減できます。また「Poly-G」を添加することで製造工程の原料の熱安定性や加工性が向上し、生産効率の向上が期待できるため、お客様のコスト低減、資源の有効利用や持続可能な社会の構築にも貢献します。

「Poly-G」の販売先は主にPEを原料に製造される家庭用製品の包装用プラスチック、物流用のストレッチフィルム、農業用フィルム用途向けを第一段階とし、PPを原料とするプラスチック製品向けにも順次展開していく予定です。これらも「Poly-G」を少量添加することでその機械的特性を高め、プラスチックの肉薄化や生産性の向上が可能となります。一般に射出成形の生産能力を高めるには大規模な設備投資が必要ですが、「Poly-G」を加えることで、既存の生産設備でより多くの製品を生産できるようになります。

また、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)などを使用したPoly-G製品についても、2024年の販売を目指して開発に取り組んでいます。

【写真】Poly-G


「Poly-G」の開発では、どのようなところに苦労をしましたか

 グラフェンは「二次元ナノ材料」であり、一次元の原子層が1~10層(グラフェン)から30~50層(ナノプレートレット)まであります。黒鉛から剥離されたグラフェンは原子層が非常に薄いため再び黒鉛に凝集しやすく、品位(層数)コントロールの難しさや最終製品の質量比0.04%-1%でプラスチックへ応用する技術が実用化の課題でした。

これらの課題に関してはグラフェンをPEやPP樹脂に均一に分散・配合するという新たな技術開発が必要であり、多様な分野の知識と専門性を持つ当社研究者の貢献に加え、プラスチック業界やお客様、一流の研究所や大学などの協力が「Poly-G」の実用化に必要不可欠であったと考えています。また当社の親会社であるゲルダウ社による試作品等の使用並びにタイムリーなフィードバックを得たことも成功の要因です。

【写真】Masterbatch Gerdau Graphene


今後、どのようなマーケットの展開を考えていますか?

 現在ゲルダウ グラフェンには4つの事業部門があります。1つ目は化学添加剤事業部門、2つ目は今回のマスターバッチ開発を含むポリマー事業部門、3つ目は鉱物添加剤事業部門、最後が特殊塗料事業部門です。化学添加剤事業部門では塗料会社、セメント会社、潤滑油会社向けにグラフェンを含む添加剤を開発し、特殊塗料事業部門では、グラフェンを添加した特殊な装飾用塗料や工業用塗料を製造。鉱物添加剤事業部門では、より少ないセメントと水でコンクリートを製造するための添加剤を開発中で、完成すればセメントの使用量を20%、水の使用量を7%減らすことができます。

グラフェンを多角的に開発するためには、まずこの展示会で「Poly-G」を多くの方々に知ってもらうことが重要です。自社ブランドを持つメーカーに、サステイナブルな製品として「Poly-G」を活用してもらうためにも、日本総代理店の住友商事とともに、これから積極的にアプローチしていきたいと思います。

【写真】グラフェンの入った容器を持っているアレックス氏

ゲルダウ グラフェン社の出展情報は下記からご確認いただけます