AI時代にあっても、ひらめきと粘り強さが切り拓く
分解できる高性能プラスチックへの挑戦

国立大学法人大阪大学 大学院工学研究科 教授 鳶巣 守 氏

 

ケミカルリサイクルが困難とされてきた高性能プラスチック。その常識を覆す新技術を大阪大学の鳶巣守教授らの研究グループが開発した。従来の材料特性を保ちながらも、特定の触媒を用いてモノマーにまで分解し、再重合が可能な新しいポリマーだ。開発のきっかけは、別分野の知見を応用するという大胆な発想にあった。素材開発の現場における“異分野融合”の可能性を感じさせる取り組みを紹介する。(文:落合平八郎広報事務所)

【来場希望の方】

5月大阪展への入場には 事前に来場登録が必要です!

※カンファレンスの聴講には別途お申込みが必要です。こちらからお申込みください>
※こちらの来場登録で5/14~16にインテックス大阪内で開催するすべての展示会に入場が可能です。

【出展検討の方】

簡単1分で資料請求できます!

出展検討用パンフレット、
出展料金、会場レイアウトなど

きっかけは「自分たちの技術を使えないか」


鳶巣教授が長年取り組んできたのは、有機化学の分野で医薬品などの原料となる低分子化合物を合成する研究。その中核となる技術が「強固な化学結合を切るための触媒開発」だった。ある時、環境問題として報道されるプラスチック汚染のニュースを見て、「自分たちの触媒が高分子にも応用できるのでは」とひらめいたという。実際、プラスチックの分解が難しいのは、主鎖の化学結合が非常に安定しているため。「それならその結合を狙って切れるように設計すればいい」と考え、研究が始まった。

高性能プラスチックの分解設計という逆転の発想


研究対象となった高性能プラスチックは、PPE(ポリフェニレンエーテル)やPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)といった、いわゆるスーパーエンプラに分類される素材群である。高温や薬品に強く、軽量かつ高強度であることから、自動車や航空機、電子部品、医療機器など幅広い分野で用いられ、一部では金属の代替材料としても活用されている。その一方で、分子構造が極めて安定しているため、従来のケミカルリサイクル技術では分解が困難とされてきた。鳶巣研究室が導入を検討した「配向基」は、もともと有機化学の分野で金属触媒と反応を制御するために用いられてきた技術だ。その知見を高分子に応用し、ポリマーの主鎖に配向基を組み込むことで、ニッケル触媒による選択的な分解と再重合が可能になるのではと考えた。

素材づくりからの挑戦。専門外の壁と“隣の研究室”


研究を始めて最初に立ちはだかったのが、ポリマーそのものを作るという壁だった。「我々は有機化学が専門で、高分子ポリマーを自作したことがなかった」と鳶巣教授。しかも今回必要となるのは、既存にはない「配向基付き」の新素材。合成法も分析手法もすべて手探りだった。同研究室で大学院生の小川敏史さんは、ポリマー合成の基礎から独学し、何度も試作を繰り返した。研究を大きく進展させるきっかけとなったのは、隣の高分子専門研究室(宇山教授、徐准教授)との連携で、ポリマーの合成・分析の手ほどきをしてもらった。「失敗の連続で、本当にこれ分解できるのかと不安ばかりでした」。それでも諦めず、触媒反応によって徐々に溶けていく瞬間に立ち会ったとき、「おっ、いってるじゃん」と手応えを感じたという。

再利用できなかった素材に、新たな出口を


これまでリサイクルが難しかった高性能プラスチックに、資源循環の「出口」を与える技術として期待がかかる。特に、自動車や電子機器で使われるような高耐熱・高耐薬品性素材は、燃やす以外に処理方法がなかった。配向基の導入という設計思想により、素材としての機能性を損なうことなく、使用後に分解・再生できる循環が実現可能になる。

鳶巣教授は「自分の専門性を突き詰めてきたからこそ、異分野との接点に価値が生まれた」と語る。素材開発の現場には、ひらめきと粘り強さが今なお不可欠だ。AIでは到達し得ない「ゼロから1を生み出す力」が、未来の科学を切り拓いていく。

 

展示会:リサイクルテック ジャパン[大阪]

ホームページ:https://www-chem.eng.osaka-u.ac.jp/~tobisu-lab/

連絡先:[email protected]