製造工程の乾燥時間短縮はなぜ進む?
マイクロ波乾燥の最新技術と導入効果


はじめに

リチウムイオン電池の需要が拡大するなかで、電池製造の各工程における省エネルギーが大きな課題となっています。とりわけ電極の乾燥工程は、製造にかかる全エネルギーの4割程度を占めるケースもあり、ここをどう効率化するかが製造コストやCO2排出量を左右します。

この課題に対し、レーザー乾燥という技術が省エネルギーの切り札として研究・開発が進んでいます。消費電力の半減や設置面積の大幅削減といった成果が報告されており、電池製造の乾燥工程を変える可能性を持つ技術です。本記事では、レーザー乾燥の原理から省エネルギー効果、導入時の課題までを順に紹介します。



【展示会情報】
【次世代】乾燥プロセス展 ードライテックー

会期:2026年9月30日(水)~10月2日(金)会場:幕張メッセ  


電池製造における乾燥工程の役割

リチウムイオン電池の製造フロー

リチウムイオン電池のセル製造は、電極製造の段階から始まります。電極製造では、正極と負極の電極シートをそれぞれ準備します。具体的な工程としては、スラリー混合、塗工と乾燥、そしてカレンダリングがあり、これらを経て電極シートが完成します(参照*1)。

乾燥工程は、エネルギー消費の観点で特に重要な位置を占めます。電極の乾燥工程は製造における最もエネルギーを消費する工程の1つで、製造にかかる全エネルギーの4割程度を占めるケースもあります(参照*2)。乾燥工程の効率がそのまま製造全体の省エネルギーに直結するため、改善の優先度が高い工程といえます。

電極乾燥が品質に与える影響

乾燥工程は、省エネルギーの課題だけでなく、電池性能そのものにも深く関わっています。電極の乾燥プロセスは、毛細管現象による電解液の浸透、電解質の拡散、そして電極と集電体との接着性に大きく影響します(参照*1)。

たとえば、ドイツのフラウンホーファー・レーザー技術研究所が開発したダイオードレーザー式乾燥システムは、黒鉛系負極の従来工程として、銅箔に黒鉛ペーストを塗布した後、連続炉で160〜180℃で乾燥させています(参照*3)。乾燥の温度プロファイルや時間が適切でないと、電極内部の構造が乱れ、電池のサイクル寿命や容量に影響が及びます。乾燥条件を検討する際には、エネルギー効率だけでなく、電極構造への影響も合わせて確認する必要があります。


従来乾燥方式のエネルギー課題

温風乾燥炉の消費エネルギー構造

従来の温風乾燥は、乾燥炉内を100~200度ほどの高温に保ち、電極をゆっくりと通過させて溶媒を蒸発させる方式です。この方式では排熱が多く、乾燥に直接使われない無駄なエネルギー消費が大きいという構造的な弱点を抱えています。加えて、熱源として天然ガスなどの化石燃料を燃焼する装置も多く、CO2排出の面でも問題がありました(参照*2)。

設備の大きさも課題の1つです。ガスを熱源とする連続炉は、工業規模では長さ60~100mに達し、毎分最大100mの箔を乾燥させる仕様となっています(参照*3)。このように、従来方式では大量のエネルギーと広大な設置面積の両方が必要となるため、省エネルギーと省スペースの両立が困難でした。

NMP溶媒回収の追加負荷

従来の電極製造では、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)という有機溶媒がバインダーの溶剤として広く使われています。NMPは有害性があるため、乾燥時に蒸発したガスを回収・精製する必要があります。この回収プロセスのエネルギー負荷は非常に大きく、NMP1kgあたり8.5kWhのエネルギーを要し、年間では15GWhに達するとの試算があります(参照*4)。

回収率は98.9%と高いものの、回収設備の運転そのものが乾燥工程に大きなエネルギー負荷を上乗せしています。電池製造の省エネルギーを考える際には、乾燥炉単体の効率だけでなく、溶媒回収を含めた工程全体のエネルギー収支を把握することが欠かせません。


レーザー乾燥の原理と仕組み

ダイオードレーザー方式の加熱機構

レーザー乾燥方式では、レーザーをスラリーに照射して乾燥させます。スラリーに含まれる電極活物質がレーザーのエネルギーを吸収して発熱し、その熱で溶媒を蒸発させる仕組みです。たとえばリチウムイオン電池の負極では、主に黒鉛が発熱して溶媒の水を蒸発させます。照射するレーザーの波長は900~1100nmの近赤外光で、この波長は空気や蒸発した溶媒ガスにほとんど吸収されないため、活物質を直接加熱できます(参照*2)。

フラウンホーファー・レーザー技術研究所によるダイオードレーザーを用いた乾燥装置では、波長1マイクロメートルのレーザーと、電極を広い面積にわたって照射する特殊な光学系を組み合わせています。この光学系は、乾燥装置向けに専用設計されたものです(参照*5)。従来の炉のように空間全体を加熱する必要がないため、エネルギーを対象物に集中させることができます。

VCSEL方式の特徴と均一照射

垂直共振器面発光レーザー(VCSEL)は、チップの面から発光するレーザーで、アレイ化が容易という特徴を持ちます。最大で数十kWまでスケールアップした製品も存在します(参照*6)。

ドイツのレーザー・工作機械メーカーであるTRUMPF Photonic ComponentsのVCSELを用いた加熱装置「TruHeat VCSEL」は、直接的かつ均一な赤外レーザー光を発生させ、エネルギー損失をほとんどなくした状態で材料表面を加熱処理します。従来の製造方法に比べて設置面積を小さくしながら、高い効率を実現する点が特徴です(参照*7)。ダイオードレーザー方式とVCSEL方式のどちらが適しているかは、乾燥対象の面積や処理速度の要件に応じて判断することになります。



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会期:2026年9月30日(水)~10月2日(金)会場:幕張メッセ  


レーザー乾燥の省エネ効果

消費電力と設置面積の削減実績

レーザー乾燥は、電池製造における省エネルギーに直結する具体的な成果が報告されています。フラウンホーファー・レーザー技術研究所のダイオードレーザーによる乾燥では、必要なエネルギーを最大50%削減し、工業規模での乾燥装置の設置面積を少なくとも60%縮小できると見込まれています(参照*3)。

実験レベルでも同様の傾向が確認されています。従来法で分速1mの搬送速度で乾燥する場合、搬送方向に約1.8m(60cmの乾燥炉3基分)の長さが必要になります。これはレーザー乾燥と比較して6倍の乾燥距離にあたります。こうした点を踏まえると、乾燥工程全体の消費電力としてはレーザー乾燥の方が半分以下に抑えることも可能です(参照*2)。省エネルギーだけでなく、工場の床面積当たりの生産性も向上することができる点を評価基準に含めるとよいでしょう。

CO2排出量低減への寄与

省エネルギーの効果は、CO2排出量の削減にも直結します。電池製造におけるCO2排出の最大の要因は、電池箔の塗膜乾燥工程にあるとされています。TRUMPF Photonic Componentsによると、VCSEL方式の加熱装置を使うことで、エネルギー効率が従来の2倍以上に高まり、さらに乾燥速度も従来比で最大3倍に達することがわかっています(参照*8)。

従来の温風乾燥では天然ガスなどの化石燃料を熱源とする場合も多く、燃焼によるCO2排出が避けられませんでした。レーザー乾燥は電力を直接レーザー光に変換するため、熱源の燃焼を伴いません。製造工程のCO2排出量を評価する際には、乾燥炉の熱源をレーザーに置き換えた場合の削減幅を試算し、全体の排出量計画に反映する作業が求められます。


導入時の課題と注意点

スケールアップと量産適用の壁

レーザー乾燥の省エネルギー効果が確認されても、量産ラインへの適用にはまだ超えるべき壁があります。次のステップは、試作機レベルの技術を工業規模の生産ラインへスケールアップすることです。大面積への適用で工業生産に必要な高い処理速度を実現することが課題の1つでした。この課題に対しては、複数のビームを並列に配置して同時に制御するマルチビーム構成が解決策として用いられています(参照*5)。

この技術の研究は、ドイツ政府が支援するIDEEL研究プロジェクトで2021年10月に開始され、3年間の研究期間が設定されました。IDEELは、リチウムイオン電池製造における乾燥工程のエネルギー低減を目的とした取り組みです(参照*2)。量産適用を検討する段階では、既存の研究成果やマルチビーム構成の技術動向を把握し、自社ラインの処理速度要件と照らし合わせることが実務上の出発点になります。

乾燥品質の評価基準と検証方法

レーザー乾燥を導入する際には、乾燥品質をどう評価するかも検討が必要です。電極の乾燥プロセスは、毛細管現象、電解質の拡散、電極と集電体の接着性など、電池性能に直結する複数の要素に影響を及ぼします(参照*1)。

レーザー加熱源では、事実上すべてのエネルギーを対象材料に照射できるとされ、極めて高い電力変換効率を持つことが特徴です(参照*9)。しかし変換効率が高いことと、乾燥後の電極品質が要求水準を満たすことは別の問題です。導入検証では、温度分布の均一性、乾燥後の膜厚や密着強度といった項目を設定し、従来方式で得られた品質データと比較する手順を組み立てることが実務の基本になります。


水系バインダーとの相乗効果

レーザー乾燥の省エネルギー効果は、水系バインダーの採用と組み合わせることでさらに高まる可能性があります。オーストラリアのディーキン大学、スペインのCIDETEC、バスク大学POLYMAT、アラゴン炭素化学研究所などの共同研究によると、水系電極はNMPを用いる電極と比較して、製造時のエネルギー消費が1桁程度少ないことが報告されています。スラリー中の固形分含有量を高く保ちながら塗工特性を維持でき、水は沸点が低く蒸気圧が高いため、乾燥温度と乾燥時間の両方を抑えられます(参照*10)。

水系バインダーを使えばNMPの回収設備が不要となり、前述したNMP1kgあたり8.5kWhという回収エネルギーがそのまま削減されます。レーザー乾燥はスラリー中の活物質を直接加熱する仕組みのため、溶媒が水に変わっても加熱の原理は同様に機能します。水系溶媒の導入についても、工場全体のエネルギー収支への影響を定量的に把握する取り組みが進んでいます(参照*4)。電池製造の乾燥工程で省エネルギーを追求するうえでは、レーザー乾燥と水系バインダーの両方を視野に入れた工程設計が選択肢に入ってきます。


関連する注目の展示製品

レーザー乾燥に関連する製品は、展示会でも出展されています。以下に、電池製造向けのレーザー乾燥関連の商品を紹介します。

武蔵ワイヤード株式会社
・枚葉レーザー乾燥装置 WiDRY3(参照*11
枚葉レーザー乾燥試作機仕様(社内デモ機) 1)ワークサイズ:Max300mm×300mm 2 )レ ー ザ ーユニット:1ヘッド   焦点ビームサイズ:200mm角 3)オプション多数 サーモカメラ、放射温度計、光学カメラ   電子天びん、低露点エアー供給装置 ガス温度計、酸素濃度計、露点計

武蔵ワイヤード株式会社
・Roll to Roll レーザー乾燥試作機 WiDRY(参照*12
RtoRレーザー乾燥試作機仕様(社内デモ機) 1)機材種類:金属箔、樹脂フィルム等 2)基材幅:MAx350mm 3)機械速度:0.5~5m/min 4)塗工部:ナイフコーター・スロットダイコーター 5)レーザー乾燥炉:2ヘッド          ファイバーレーザー          ダイレクトレーザー 6)熱風乾燥炉:熱風発生器(電気ヒーター)×1台 7)計測機器   サーモカメラ、放射温度計、光学カメラ   ガス濃度計 ※その他、お問い合わせください。

株式会社 プロフィテット
レーザー乾燥用VCSEL(参照*6
レーザーによる乾燥は、対流式オーブンと比べ、高速でコンパクト、かつCO2排出量削減に貢献するという特徴があります。 VCSELは、チップの面から発光するレーザーで、アレイ化が容易であるという特徴があります。 当社では、VCSELをアレイ化し、最大数十kWまでスケールアップした製品を取り扱っています。


おわりに

電池製造の乾燥工程は、消費エネルギーの大きさとCO2排出の両面で改善が求められる工程です。レーザー乾燥は、消費電力の半減や設置面積の大幅な縮小といった省エネルギー効果に加え、水系バインダーとの組み合わせでさらなる効率化が見込める技術です。

導入にあたっては、スケールアップの技術的な壁や乾燥品質の評価方法など、検証すべき項目が残っています。レーザー方式の種類、自社ラインの処理速度要件、溶媒の選択肢を整理しながら、工程全体のエネルギー収支を見据えた比較検討を進めてみてください。

マイクロ波乾燥による製造工程の効率化や乾燥時間短縮、品質改善の最新事例を把握するには、専門展示会での情報収集が有効です。
乾燥工程に関わる技術・装置を一堂に比較できる場として、9月に「乾燥プロセスEXPO」が初開催されます。
展示会概要や出展資料など、詳細は下記よりご確認ください。

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