赤外線乾燥でフィルム・コーティング品質が変わる?
製造ライン最新技術と課題
赤外線乾燥の基礎と波長帯別特性
近赤外線・中赤外線・遠赤外線の違い
赤外線乾燥を理解するうえで、まず押さえたいのが波長帯による分類です。赤外線は波長0.78~1000μmの範囲にわたり、近赤外線(NIR:0.78~3.0μm)、中赤外線(MIR:3.0~50.0μm)、遠赤外線(FIR:50.0~1000.0μm)の3つに区分されます(参照*1)。
波長帯が異なると、エネルギー密度や素材への浸透の深さも変わります。近赤外線は浸透深度が大きく、エネルギー密度も高いため、比較的厚みのある不均一な素材の乾燥に適しています(参照*2)。
一方、中赤外線ヒータはピーク波長が2.6μm付近にあり、近赤外線を主に照射するハロゲンヒータよりも長波長側にピークを置く特性があります。たとえば、岩崎電気社の中赤外線ヒータでは、ピーク波長を2.6μmに置くことで、近赤外線を主に照射するハロゲンヒータよりも長波長側の放射を実現しています。このため水溶性塗料など水分を含む塗装の加熱・乾燥に適し、温度むらが少ないとされています(参照*3)。フィルム・コーティングの乾燥条件を決める際は、対象素材の組成と各波長帯の特性を照合する作業が欠かせません。
フィルム・コーティングとの吸収波長の関係
赤外線乾燥の効率は、塗膜が赤外線をどの波長でどれだけ吸収するかに左右されます。中赤外線ヒータは、水・樹脂・塗料といった素材に対して赤外線吸収波長域を多く含んだ光を放射します。これにより対象物を効率よく、非接触で加熱できます。フィルム・コーティングに使われる水溶性塗料の場合、水分子の吸収帯が中赤外線領域に集中しているため、中赤外線ヒータとの相性が高くなります(参照*3)。
製造ラインで赤外線乾燥を導入する際は、使用する塗料・溶剤の吸収スペクトルとヒータのピーク波長を事前に突き合わせ、エネルギーの転換効率を最大化する波長帯を選定する手順が求められます。
製造ラインが抱える乾燥工程の課題
熱風方式の限界と品質リスク
製造ラインの乾燥工程では、従来から熱風炉が広く使われてきました。しかし生産性や品質の向上が求められる中で、熱風炉では対応しきれない場面が増えています。理論上は炉の温度や風量を上げれば乾燥時間を短縮できますが、実際にはコート表面への埃やチリの付着、シワ、ヒビ、皮張りといった品質問題が発生します。さらに炉内が設定温度に達するまでに時間がかかるという問題もあります(参照*4)。
加えて、熱風による加熱は外側から内側への温度勾配が生じやすい特性を持ちます。この勾配が過度になると、過剰な処理につながり、対象物の品質や機能を損なう恐れがあります(参照*1)。製造ラインの乾燥炉を見直す際には、こうした熱風方式固有のリスクを洗い出し、代替手段や補完手段と比較する作業が出発点になります。
ライン速度・膜厚制御との両立
製造ラインでは、ライン速度を維持しながら塗膜の水分量と膜厚を均一にそろえることが求められます。たとえば、MoistTech社のフィルム・コーティング工程向けIR-3000Cでは、コート重量のばらつき、水分制御の不十分さ、膜厚や温度の変動が最終製品の品質と使い勝手に大きく影響されます(参照*5)。
熱風炉だけで乾燥を行う場合、ライン速度を上げると乾燥時間の確保が難しくなり、膜厚が厚い品種では内部の乾燥不足が残りやすくなります。逆にライン速度を落とせば生産性が下がります。この問題を解消するには、乾燥方式そのものを見直し、内部まで効率よくエネルギーを届ける手段を検討する必要があります。
IR×熱風ハイブリッド乾燥の仕組み
内部加熱と表面加熱の役割分担
ハイブリッド乾燥とは、赤外線(IR)と熱風を組み合わせて使う方式です。遠赤外線乾燥炉は熱風との併用タイプで、IRが塗料を内部から加熱し、熱風が塗料の表面を乾燥させます(参照*6)。
一つの加熱方式だけに頼るのではなく、それぞれの特性を活用して複数の方式を用いることで、加熱プロセスの改善につながります。たとえば、IST METZ社の工業用乾燥システム「THERMOcure」では、IR放射と対流式の熱風を組み合わせることで、水系・溶剤系のインキやワニス、コーティングの高速かつ均一で省エネルギーな乾燥が可能になります(参照*7)。フィルム・コーティングの製造ラインで内部と表面の乾燥バランスをとるには、それぞれの出力比率を品種ごとに調整する運用が求められます。
既存ラインへの組込みとゾーン設計
ハイブリッド乾燥の大きな利点は、既存の製造ラインに柔軟に組み込める点です。前述のIST METZ社の「THERMOcure」では、予備乾燥・中間乾燥・最終乾燥のいずれにも対応でき、既存の製造ラインへ単独でも他の硬化システムとの組合せでも柔軟に統合できます(参照*7)。
製造ライン内にIRゾーンと熱風ゾーンをどう配置するかは、フィルム・コーティングの膜厚や溶剤種類に応じて変わります。たとえば前段にIRゾーンを設けて塗膜内部の溶剤を先に飛ばし、後段の熱風ゾーンで表面を仕上げる方法が考えられます。ゾーンの数と長さ、それぞれの出力設定を工程ごとに設計することで、ライン速度を落とさずに乾燥品質を確保する構成が実現できます。
品質欠陥の原因と赤外線乾燥による対策
塗りムラ・皮張り・ブリスターの発生機構
フィルム・コーティング工程で発生しやすい品質欠陥には、塗りムラ・皮張り・ブリスターなどがあります。塗布工程での塗りムラや不均一性は製品の品質問題に直結し、深刻なクレームへと発展するケースが増えています(参照*8)。
皮張りは、熱風方式で表面だけが先に乾いて膜を形成し、内部の溶剤が閉じ込められることで起こります。熱風炉では炉の温度や風量を上げると皮張りやシワ、ヒビの発生リスクが高まります(参照*4)。赤外線ヒーターシステムの導入により塗膜の表面品質が飛躍的に向上した事例もあります。英国のKestrel Injection Moulders Ltd. のプリマス工場では、Excelitas Technologiesの中波長赤外線ヒーターシステムを導入した結果、従来の熱風炉で課題となっていた埃やチリの付着、シワ、ヒビ、皮張りなどの品質問題が改善され、塗膜の表面品質が大きく向上したと報告されています。(参照*4)。
インライン赤外線計測による品質可視化
製造ラインで品質欠陥を早期に検知するには、インラインでの計測が有効です。たとえば、株式会社フォトロンは、赤外線カメラを使い塗りムラを可視化できる測定技術を紹介しています。これにより、従来は内部が見えなかった塗布工程の品質を、非接触かつ定量的に管理できるようになります(参照*8)。
フィルム・コーティング分野では、紙・フィルム・箔・複合ボード・ホットメルト・樹脂コーティングなどの加工用途向けに、水分・コート重量・膜厚・温度を精密に計測するセンサが、MoistTech社によって実用化されています(参照*5)。製造ラインにこうした計測機器を組み込むことで、乾燥条件のずれをリアルタイムに把握し、ヒータ出力やライン速度へ即座にフィードバックする運用が可能になります。
導入メリットと注意点の比較
乾燥時間・省スペース・コスト削減効果
赤外線乾燥を製造ラインに導入した場合、乾燥時間の大幅な短縮が期待できます。Kestrel Injection Moulders Ltd. のプリマス工場の事例では、従来の熱風炉で20分程度かかっていた乾燥が、赤外線ヒーターでは3分半程度まで短縮されました。水系塗料と無色透明保護コート2層を重ねる2コート/2ベーク仕様の場合、工程時間が劇的に短くなりました。さらに赤外線ヒーターは出力の可変が容易なため、製品ロットごとの加熱・乾燥プロファイル変更にも素早く対応できます(参照*4)。
乾燥時間が短くなれば、炉の長さを短縮でき、省スペース化にもつながります。たとえば、荻原工業の近赤外線乾燥機は、エネルギー効率の高い乾燥と設置スペースの低減が実現されています(参照*9)。製造ラインのレイアウトを見直す際は、乾燥炉の長さと設置面積の変化を数値で比較し、投資対効果を検証してください。
浸透深度と過加熱リスクへの対処
赤外線乾燥には利点が多い一方、注意すべき点も存在します。赤外線は高エネルギーであるため、不適切に使用すると対象物に焼けや損傷を与えるリスクがあります。加えて、赤外線の浸透深度は比較的浅いため、厚みのある対象物に適用する際にはサイズを慎重に検討する必要があります(参照*1)。
フィルム・コーティングの製造ラインで過加熱を防ぐには、ヒータの出力・照射距離・照射時間を品種ごとに設定し、試験工程で塗膜温度を実測して上限を確認する手順が欠かせません。浸透深度の制約が問題になる場合は、ハイブリッド方式のように熱風を補助的に併用し、内部と表面の温度差を縮める設計を検討しましょう。
省エネ・脱炭素化と最新動向
エネルギー消費削減の定量データ
赤外線乾燥は、省エネルギーの面でも具体的な成果が示されています。英国バーミンガム大学による赤外線と対流乾燥を組み合わせた試験では、乾燥時間が48%短縮され、エネルギー消費が63%削減されたという報告があります(参照*1)。
製造ラインにおいても、乾燥時間の短縮は炉の稼働時間を減らし、ガスや電力の使用量を直接削減します。フィルム・コーティングの工程では、塗膜を効率よく加熱することで余分な熱エネルギーの放散を抑えられるため、ライン全体のエネルギー原単位を下げる効果が見込めます。導入前後でエネルギー消費量を定量的に比較し、削減幅を把握することが投資判断の根拠になります。
水素燃焼・電化によるCO₂排出低減
脱炭素化に向けた取り組みとして、乾燥炉の熱源そのものを見直す動きが進んでいます。塗装乾燥炉の分野では、正英製作所は水素燃焼式と電気ヒーター式の2つの方式を提案しています。再生可能エネルギーを用いた電源や水素燃料を使用することで脱炭素化を図ることができます(参照*10)。
具体的には、輻射焼付加熱ゾーン(700~850℃)に電気赤外線ヒーターまたは水素燃焼式バーナーを配置し、水切り乾燥炉(100~150℃)やブース加温には水素燃焼式熱風発生装置や電気式熱風発生装置を用いる構成が提案されています(参照*10)。製造ラインの熱源を選定する際は、赤外線乾燥の省エネ効果とCO₂排出量の両面から比較検討を進めてください。
関連する注目の展示製品
赤外線乾燥やフィルム・コーティングの製造ラインに関連する技術は、展示会でも複数出展されています。ここでは、過去の展示会で紹介された注目の出展商品を取り上げます。
アンデックス 株式会社
・熱風乾燥炉+高出力赤外線ヒーター『CAB-OVEN HYBRID』(参照*11)
熱風乾燥炉のハイブリッド化に最適 <熱風+赤外線ヒーター> CO2排出削減・乾燥時間の短縮・作業の効率アップ ガス使用量の削減!・乾燥の短時間化!・作業の高効率化!
萩原工業 株式会社
・近赤外線乾燥機(参照*9)
乾燥、結晶化、脱臭装置 直接的で効果的な乾燥により、機械部品(ホッパー乾燥カートリッジなど)の加熱が軽減されます。 材料は、赤外線によって芯から表面まで直接加熱されます。 エネルギー効率の高い乾燥で、設置スペースも低減されます。 材料の予熱が不要で、投入材料の変更や洗浄も短時間で済みます。 入口水分含有量の変化に対応可能。
株式会社 正英製作所
・低炭素型塗装設備のご紹介【塗装乾燥炉/排ガス処理装置】(参照*10)
正英製作所では脱炭素化社会に対応すべく、低炭素型の塗装乾燥炉をご提案しています。 塗装乾燥炉/排ガス処理装置に多くの実績がある正英製作所では 「水素燃焼式」と「電気ヒーター式」をラインナップ ”再生可能エネルギーを用いた電源”や”水素燃料”を使用することで脱炭素化が図れます。 またそれらが現時点で整わない場合でも、 ・熱源構成の一部を電化するハイブリッド型 ・都市ガス/プロパンガスと兼用可能な水素ガスバーナーを導入することで 先行きのつかめない将来のエネルギー供給に対応することができます 【塗装焼付乾燥炉】 熱風ゾーン(100〜250℃) ⚪︎水素燃焼式熱風発生装置「AH-H2」 ⚪︎電気式熱風発生装置「AH-E」 輻射焼付加熱ゾーン(700〜850℃) ⚪︎電気赤外線ヒーター ⚪︎水素燃焼式バーナー 水切り乾燥炉(100〜150℃)・ブース加温 ⚪︎水素燃焼式熱風発生装置「AH-H2」 ⚪︎電気式熱風発生装置「AH-E」 【排ガス処理装置/VOC処理】 ⚪︎電気式触媒脱臭装置(CT) ⚪︎蓄熱脱臭装置(RTO)
おわりに
赤外線乾燥は、フィルム・コーティングの品質向上とライン速度の両立、さらに省エネルギーとCO₂排出低減という複数の課題に対し、一つの技術で解決の糸口を示す手段です。波長帯の選定、ハイブリッド方式のゾーン設計、インライン計測による品質管理、そして熱源の脱炭素化が、製造ラインを改善するうえで押さえるべき要点となります。
自社の塗膜組成やライン条件を踏まえて、どの波長帯・どの加熱方式が最適かを比較検討し、試験データをもとに導入判断を進めていくことが次のステップになります。
マイクロ波乾燥による製造工程の効率化や乾燥時間短縮、品質改善の最新事例を把握するには、専門展示会での情報収集が有効です。
乾燥工程に関わる技術・装置を一堂に比較できる場として、9月に「乾燥プロセスEXPO」が初開催されます。
展示会概要や出展資料など、詳細は下記よりご確認ください。
参照
- (*1) PubMed Central (PMC) – Advances in the Application of Infrared in Food Processing for Improved Food Quality and Microbial Inactivation
- (*2) PubMed Central (PMC) – Comparative drying of pomelo peel and optimization using ultrasound-assisted near-infrared drying
- (*3) PR TIMES – 高効率加熱を実現する「中赤外線ヒータ専用ハウジング」を販売開始 | 岩崎電気株式会社のプレスリリース
- (*4) NobleLight – 赤外線ヒータによるコート乾燥で生産効率を向上
- (*5) MoistTech – IR3000C On-Line: Converting Products
- (*6) 株式会社セコニック – 各種フィルム|製品情報
- (*7) IST METZ – THERMOcure hot air & IR drying system
- (*8) 株式会社フォトロン – 赤外線カメラによる「塗りムラ」「水分ムラ」の可視化 | 株式会社フォトロン
- (*9) 近赤外線乾燥機
- (*10) 低炭素型塗装設備のご紹介【塗装乾燥炉/排ガス処理装置】
- (*11) 熱風乾燥炉+高出力赤外線ヒーター『CAB-OVEN HYBRID』
