【インタビュー】日本リファイン株式会社 営業本部 地上資源開発部長 水谷秀臣氏

「溶剤は産業の「血液」」―― 日本溶剤リサイクル工業会のホームページの冒頭に記載されている言葉だ。モノづくりの現場はもちろんのこと、身近なものでいえばコロナ禍で使用量が大幅に増えたアルコール消毒液、香水や化粧品、ネイルの除光液や塗料を希釈するシンナーのほか、医薬品を粉末状態から液体状態に変える場合にも使われている。一方で、持続可能な社会の実現に向けた資源循環、環境保全、カーボンニュートラルの達成に対して業界に課せられた社会的使命の達成は急務だ。同業界のけん引役であるリファインホールディングスの子会社、日本リファインに入社以来、30余年にわたって有機溶剤の第一線で精力的に活動する同社営業本部 地上資源開発部長 水谷秀臣氏に話を聞いた。(聞き手:落合平八郎)

2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて

 環境への負荷が少なく、サステイナブルな資源循環社会への転換が求められるなか、当社ではモノづくりに欠かすことができない有機溶剤を回収して再資源化することや、排水、排ガスからできる限り有用成分を回収するなどの取り組みを通じて、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて貢献できるよう取り組んでいます。
 主力の精製リサイクル事業は、お客様の工場で利用された使用済みの有機溶剤を引き取って精製し、再利用可能できる有機溶剤としてお返ししたり、または別のお客様に再度利用していただいたりしています。使用済みの有機溶剤の多くは焼却処分もしくは活性汚泥処理されてきたため、温暖化の原因にもなっていました。通常の蒸留では難しい半導体や電子材料向けの厳しい使用済み溶剤を、高精度に分離できる特殊な蒸留技術を保有するなど、高度な再資源化にも対応しています。
 また環境エンジニアリング事業では、たとえばお客様の工場内に装置を据え付け、ご利用になられた有機溶剤をその場で再資源化する装置のご提案や、回収装置を据え付けて有機溶剤の含有量が少ない排ガス・排水などから回収した液を引き取り、精製して再利用可能な有機溶剤をお客様にお返ししています。

【写真】環境エンジニアリング事業の事例。工場内に装置を導入頂きもしくは据え付けて使用済み有機溶剤を蒸留し再資源化する(同社提供)。

有機溶剤の環境対応について

 かつて有機溶剤は「発酵法」によって生産されていましたが、20世紀に入ると石油化学工業の発展により、石油を原料としその化学反応によって有機溶剤を作る「合成法」が用いられました。特に「合成法」は、「発酵法」に比べて大量生産が可能なため需要に応じて迅速に生産量を増やすことができ、近年の大量生産、大量消費の時代において安定して供給できるという利点があります。
 しかし、環境問題やバイオマス資源の活用の必要性などから、近年では再び「発酵法」による有機溶剤が注目されています。環境に優しく、バイオマス資源を活用することができるため、持続可能な社会の実現に向けた取り組みとして適しています。当社では、このバイオ溶剤などの地上資源がベースとなっている溶剤を「地上資源由来溶剤」と呼んでいます。とうもろこしやサトウキビ、古紙などがあげられます。バイオ溶剤は生産規模の違いから石油由来の溶剤に比べて割高ですが、当社では海外子会社などを通じてバイオ溶剤メーカーより製品の調達や納入が可能であり、また使用済み溶剤を精製・リサイクルすることでトータルコストダウンが可能になるとみています。

【図】同社による地下資源、地上資源の区分。地上資源にはとうもろこしやサトウキビなどの農作物や古紙、木材などであり、地下資源は石油、石炭など地下にあるものを指す(同社提供)。

消費マインドの変化、「エシカル消費」への期待

 化粧品業界の方々と約6年にわたるプロジェクトに関わらせていただきました。化粧品においても環境や社会に配慮した商品が求められるようになっているためです。一般的な化粧品には石油由来の溶剤を使っていますが、天然の成分で環境に優しいバイオ溶剤(地上資源由来溶剤)がエシカル消費(※)に適した素材として注目されています。また、バイオ溶剤はオーガニックな素材で、化学合成に比べて肌への刺激が少ないともいわれています。
 持続可能な社会の実現に向けたこうした消費マインドの大きな変化に対し、当社の技術や製品が身近に使われることは大変うれしいです。当社の事業は、モノづくりの現場や工場といった一般には知られることがない少ない分野ですが、身近な事例があることで家族や知人にも説明しやすくなります。もちろん、バイオ溶剤を普及させるには調達やコストといったさまざまな課題も山積しています。有機溶剤が使用される各種産業、各企業に寄り添って様々な提案をすることで持続可能な社会の実現に向けて今後も推進していきます。

※エシカル消費:倫理的、社会的、環境的に責任ある消費のことを指す。消費者は、製品の製造過程や使用されている素材、企業の社会的責任など、環境や社会に配慮した情報を考慮し、意識的な消費行動をとることが求められている。

【写真】オーガニック商品のイメージ