【インタビュー】(株)UACJ サステナビリティ推進本部 気候変動対策推進部 主査 野瀬 健二 氏
アルミニウムは身近な製品には必ずと言っていいほど使われている重要な金属だ。内容物の風味や品質の維持が求められる飲料缶はもちろん、軽量性から自動車への適用拡大も進んでいる。しかし、環境側面でアルミを見た時には、解決すべき課題が残されていることも事実だ。原材料のボーキサイトは化学的に安定した物質であるため、アルミニウムを取り出すには大量のエネルギーが必要であり大きな環境負荷が避けられない。そこでアルミニウムのリサイクル利用が有効となる。融点が低いアルミニウムはリサイクルでのエネルギー消費が極めて少ない循環利用に適した素材である。他方、回収したアルミニウムに不純物が混じっていると品質が低下するため、適切な仕分けや合金の特性や製造工程の理解に基づいた高い技術と高度な運用が必要だ。日本発の総合アルミニウムメーカー株式会社UACJで製造プロセス改善のほか、日本アルミニウム協会など業界団体での活動にも貢献し、現在はアルミニウムの環境負荷の定量化や環境保証の構築等に取り組む、アルミニウムの“環境エキスパート”の
野瀬 健二氏に聞いた(聞き手:落合平八郎)
ある商品が話題になっていましたね。
昨年、サントリー様と、東洋製罐グループホールディングス様と共同で、世界初のリサイクルアルミ材100%使用したアルミ缶の実ラインでの生産を実現しました。これは前例のない試みです。このアルミ缶はサントリー様の商品に採用され、数量限定で販売されました。使用済のアルミ缶や製缶工程の端材などのリサイクルアルミ材を使うことによって製錬から製缶におけるCO2排出量を約60%削減することができます。
実はかなり難しい取り組みです。アルミ飲料缶の場合、蓋の部分と胴の部分で求められる性質が違うため、異なるアルミ合金が使われています。効率よく再生するためには異なるアルミ合金は分別して回収するほうがいいのですが、ご承知のように飲料缶は一体化しており、分離は不可能です。そうした状態からのリサイクル率100%(国内で再生された使用済みアルミのうちアルミ缶に再生利用される割合、CAN to CAN率)の実現は究極の課題ですが、今回の事例のように実際の生産において技術的に実現可能であることを示しました。大きな一歩です。こうした製造にかかわる技術を供給者側で準備する一方で、社会における資源循環の仕組み作りも重要となってきます。
【写真】世界初の100%リサイクル缶。昨年9月6日から数量限定で販売開始されたサントリー「ザ・プレミアム・モルツ CO2削減缶」「同〈香る〉エール CO2削減缶」に採用(現在は販売していません)。(同社提供)新地金を使用せず、すべてを使用済み缶や製造工程で発生した缶材の端材を使用した「CAN to CAN」100%の再生アルミ缶だ。ちなみに缶=Canはアメリカ英語であり、イギリス英語では缶=Tinと呼ぶそうだ。
リサイクル率向上に向けた仕組み作りについて教えてください。
アルミニウムの資源循環の仕組みは、人間の体をめぐる血液とそれを送りだす心臓に例えることができます。心臓が血液を体内に循環させるように、アルミニウムを社会で循環利用するためには、リサイクルや再利用などの機能が必須となります。心臓から送り出された血液が再び戻ってくるように、再利用されたアルミ資源で新たな製品を作り出すことで、原料側では資源の採掘を減らせます。また、心臓と血液は連携して体の機能を維持するように、製造、使用、回収、リサイクルなど各段階の資源管理を連携させることで、効率的で持続性の高いアルミの資源循環が実現可能です。
当社はアルミのサーキュラーエコノミーの心臓の役割を担っていきたいと考えています。これまでは、社会において素材を市場に供給する動脈側の役割を求められてきました。これからの循環型社会の構築に向け、近年は静脈側を強化する取り組みを行っています。例えば、使用済みのアルミ缶を回収して投入することで再生原料として使用できる一貫製造ラインがアメリカの工場で稼働しています。また、国内でも合弁会社を設立し、USBの加工から溶解までの溶解リサイクルシステムの構築を始めました。回収に携わるステークホルダーの皆様とも協力し、サプライチェーン全体でこのような取り組みが推進できればと考えています。
【図】アルミニウムの資源循環の仕組み(同社提供)サーキュラーエコノミーの心臓の役割を担う同社において、資源循環の静脈・動脈を太くすることによってサプライチェーン全体で資源循環と環境負荷低減を推進していく。
多様化するアルミニウムですが、ますます大変ですね。
アルミニウムが持つ特性を生かし、自動車や航空・宇宙、医療品・食品などあらゆる分野で採用されています。当社では約2,000種類のアルミ合金を扱っており、製造法のレシピは1万以上あります。また、一部にはアルミ合金から別のアルミ合金にはリサイクルできるけど、その逆はできないといった制約があります。これはアルミの合金の成分や製造法によるものですが、社会ではあまり知られていないことです。そのため、効率よく資源循環していく上で高い技術と高度な運用が求められます。そのうまくいった事例がサントリー様と東洋製罐グループホールディングス様と共同で製造した、世界初のリサイクルアルミ材100%使用したアルミ缶です。アルミニウムは成分・製法で様々な特徴を持ち、多様性があるが、リサイクル原料としては均質な金属資源としての特徴が求められます。この相反する課題をどう解決していくのかが難しい点です。しかし、そこに我々の素材メーカーとしての見せ場があり、また社会的な責任があると考えています。当社はこれからも、素材のサプライヤー様、素材ユーザーである製造業の皆様、製品として素材に触れる最終消費者、回収や再利用に携われる方々と協力しながら、将来の循環型社会を実現すべくアクションを取っていきたいと考えております。セミナー講演では、理解が難しいアルミの環境負荷の概要と課題を、素材ユーザー企業の調達部門や環境部門、開発部門の方にもわかりやすく解説し、相互理解のきっかけとさせていただく予定です。
【写真】インタビューに対応する野瀬氏。技術に関する難しい話を丁寧にわかりやすく説明する姿はさすが技術者。現状の課題を的確に捉え、静かな口調ながらもアルミのリサイクルに対する熱意を感じさせられた。
本展では、野瀬氏が登壇するセミナーを開催します※本講演は終了しました
アルミでかなえる軽やかな世界
(株)UACJ サステナビリティ推進本部 気候変動対策推進部 主査 野瀬 健二
