【インタビュー】山下電気(株)常務取締役 佐久間 庄一郎氏

プラスチック素材の利用のされ方で誰の目にも触れるものとして、自動車の内装や電気製品などのカバー(機器の外観部品)などが挙げられる。光沢あるプラスチックは、ユーザーにとっても作り手にとっても高級感や機能美を印象づけてくれる。

ただ、こうしたプラスチック部品を射出成形によって形づくる際、従来はウエルドラインと呼ばれる溝ができてしまう課題があった。これを解決したのが、山下電気が開発した「Y-HeaT」という技術。同社の常務取締役である佐久間庄一郎氏に、Y-HeaTが実現したウエルドレス成形の全容とそれが描く未来を聞いた。(聞き手:藤麻迪)


プラスチック成形業界で長年の課題とされてきた「ウエルドライン」とは?

山下電気は昭和初期の時代に、プラスチック成形分野へ参入し、金型の製造から成形、塗装などの二次加工までを一貫して行っております。プラスチック成形の世界で長年課題とされてきたのが、金型内で樹脂が合流するときにできてしまう溝、線である「ウエルドライン」の発生でした。ウエルドラインができると、一般消費者にはそれが傷のように見えてしまいます。さらに、成形品の限度見本を作って合格か否かの検査をしますが、検査する人によって判断が異なるという問題もあったのです。

そこで、従来はプラスチックの表面に塗装することでウエルドラインを覆い隠すことが行われてきました。しかし、塗装工程は材料費、電力、設備、労力……とさまざまなリソースを割く必要がありますし、塗装不良による損失も大きな問題となります。

そうであれば、最初からウエルドラインをつくらない、というのがY-HeaTの根底にある発想となっています。

【写真】Y-HeaTを用いてつくられたピアノブラックの成形品


Y-HeaTの仕組み、そして顧客が得たメリット

とはいえ、業界としての長年の悩みであったため、そう簡単に課題解決へは運べませんでした。最終的にY-HeaTという技術ができるまで、延べ10年ほどの期間を要しています。

その開発の最後の頃、「これがダメだったら諦めようか」という雰囲気の中で生み出されたのが、金型内に細いヒーターと冷却水管を通し、金型表面を急加熱急冷却する方法。ウエルドラインをなくすためには、金型の表面温度を樹脂が固まる温度より高くする必要があります。一方、金型の表面温度を高くするとそのままでは成形品が金型から取り出せないため、急冷却する必要もありました。こうした2つの技術的要求をクリアするのが、ヒート&クールを実現するY-HeaTの技術なのです。

こうして実用化に結びついたY-HeaTは2005年より成形品の量産を開始。そして、2007年と2013年に特許を取得し、ニーズのある企業様にはライセンスを購入していただいてそこでも量産されています。

【写真】金型内ヒーター設置状態

Y-HeaTが受け入れられたのは、ウエルドレスという外観面での特長もありますが、通常の成形品と同じ成形サイクルにプラスアルファの時間を加えるだけで量産が可能な点も理由として挙げられます。また、金型全体を加熱するのではなく、ウエルドラインのある部分だけを加熱する部分加熱も大きな特徴です。これにより金型のコストアップを最小限に抑えています。もちろん、電力消費も少なくて済みます。さらに、金型設計の自由度が高いことが汎用技術として使用される大事な要素になっています。

何より、社内外で多くの生産実績のあることが、我々の最大の自慢です。汎用技術としてお客様に使用して頂き、それがお客様の利益や満足につながることが、私たちにとって一番嬉しいことです。


単なるコスト・工数削減にとどまらず、「サステナビリティ」を求める企業に寄与

また、量産、ライセンス販売を始めてから、Y-HeaTには新たな社会課題解決に寄与できることも、わかりました。従来はウエルドラインを目立たなくするため、成形品を塗装していたことは、すでに述べましたね。成形後の塗装では多くの電力を使い、CO2やVOC(塗料に含まれる有機性揮発化合物)を排出します。つまり、Y-HeaTの塗装レスの成形によって、さまざまなコスト削減はもちろん、環境負荷軽減にもつながるのです。これはあくまでも当社工場で量産する成形品での試算ですが、成形品のサイズが450トンサイズであるとき成形品1個につき約1kg、これを10万個量産した際は約100トンのCO2削減になります。

私たちと馴染み深い日本の自動車業界は2030年に約600万トンのCO2削減を目標としており、2050年には世界的なカーボンニュートラルの達成が求められています。自動車、電気、そしてその他のプラスチック成形を必要とする産業でもY-HeaTが浸透していけば、サステナブルな社会の実現にも寄与できると確信します。また、樹脂と金属のハイブリッドの成形品であるマルチマテリアル金属成形品、金属インサート結合も目下、開発中です。成形品に金属の強度を付加することで新たなニーズも生まれるでしょう。このように、ヒート&クール、Y-HeaTは今後も進化を続けていきます。

【写真】自動車内装部品 ピアノブラック塗装レス成形品

「コスト削減、環境負荷軽減を実現できる成形技術」と聞くと何やら大層なシステムを思い浮かべる方もいるかもしれませんが、先ほども申し上げたように従来の成形サイクルにプラスアルファの工程となるなど、決してお客様に大きな変化を求めるものでもありません。

私たちは展示会で必ず量産品をお見せしています。ときどき、「試作品?」といわれてしまうこともあるのですが(笑)、今回のプラスチック ジャパンで展示するのも正真正銘の量産品です。ぜひY-HeaTの品質を実感していただきたいですね。

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