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メタネーションとは?
注目される理由やメリット、企業の取り組み、
課題に関して解説!
企業で脱炭素(CO2(二酸化炭素)排出量削減)に取り組んでいる方は、「メタネーション」の単語を1度は見聞きした経験があるでしょう。しかし、単語を知っていても、メタネーションの詳細に関しては把握していないかもしれません。
本記事では、メタネーションがどのようなものなのかを詳しく解説します。注目される理由や、「メタネーション」によって得られる効果・メリット、企業の取り組み、課題もご紹介するので、ぜひ参考にしてください。
メタネーションとは
メタネーションとは、CO2(二酸化炭素)とH2(水素)からCH4(メタン)を合成することです。
なお、メタネーションによって合成されたCH4は、通常のCH4と区別するために、「合成メタン」「e-メタン(e-methane)」「カーボンニュートラルメタン」などと呼ばれます。
メタネーションの仕組み(CO2排出量が増加しないメカニズム)
工場などから排出された化石燃料由来のCO2を分離・回収し、H2と反応させて、e-メタンが合成されます。使用するH2は、太陽光発電・風力発電の余剰電力などでH2O(水)を電気分解して生産されたものが有力です。
H2とCO2に触媒を加え、高温(約500℃)で化学反応を促進させる「サバティエ反応」が用いられるケースが主流です。なお、近年、「革新的メタネーション技術」と呼ばれる技術が登場し、低コスト・高効率な生産が実現されつつあることにご留意ください(詳細は後述)。
合成されたCH4(e-メタン)は、都市ガス管を通じて工場などに供給され、CH4を燃焼して生成されるCO2は分離・再回収されます。工場でe-メタンが燃焼するとCO2が排出されますが、生産時に工場などから回収した分と等量です。つまり相殺され、トータルでは化石燃料由来のCO2は増加しないため、カーボンニュートラルに貢献します。
メタネーション技術の歴史
1911年に、フランスの化学者ポール・サバティエ氏が、ニッケルを触媒としてCO2とH2を高温で反応させるとCH4とH2Oが得られる技術(サバティエ反応)を発見しました。そして、1995年には、橋本功二氏が率いる東北大学および日立造船のグループが、再生可能エネルギーからCH4の合成に成功します。
その後、様々な企業によって触媒や反応器などが開発・改良され、単位時間あたりの収量が増加しました(後述するように「革新的メタネーション」と呼称される技術も登場)。
なお、燃料・製造プロセスから工場全体に至るまであらゆる脱炭素技術が一堂に集結する「素材工場の脱炭素化展」は、CO2排出量削減に関する製品や技術が多数出展します。素材産業でプロジェクトに携わっている方や、携わる予定がある方におすすめです。
メタネーション技術が注目される理由
以下は、メタネーション技術が注目される理由です。
- 再エネの余剰電力による水電解でH2を得てカーボンニュートラルなe-メタンを製造可能
- 革新的メタネーション技術(ハイブリッドサバティエなど)の登場
- 国がメタネーション技術を重要分野として位置付けている
それぞれに関して詳しく説明します。
再エネの余剰電力による水電解でH2(水素)を得てe-メタンを製造可能
原料にグリーン水素(再生可能エネルギーに由来する電力でH2Oを電気分解して生産したH2)を用いれば、環境に負荷がかかりません。太陽光発電・風力発電などでは、時間帯や季節によって発電量が変動し、余剰電力が生じます。余剰電力で生産されたグリーン水素は、再生可能エネルギー発電を安定的に運用するためのエネルギー貯蔵手段として役立つでしょう。
グリーン水素を用いて製造されたe-メタン(合成メタン)は、ガスの脱炭素化・カーボンニュートラルに貢献可能です。
革新的メタネーション技術(ハイブリッドサバティエなど)の登場
近年、「革新的メタネーション技術」と呼ばれる新技術が登場し、高効率・低コストなe-メタン生産が実現されつつあります。下表に、革新的メタネーション技術の具体例をまとめました。
革新的メタネーション技術の例 |
概要 |
ハイブリッドサバティエ |
|
PEM(固体高分子電解質膜)CO2還元技術 |
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バイオリアクター技術 |
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SOEC(固体酸化物形電解セル)共電解 |
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国がメタネーション技術を重要分野として位置付けている
メタネーション技術は、国が2021年6月に策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で、成長が期待される重要分野に位置付けられています。今後、天然ガスを合成メタンに置き換えることが予定されており、導入量や供給コストに関する数値目標が定められました。
具体的には、2030年までの利用開始を目指し、2030年時点で既存インフラへ合成メタンを1%注入(年間28万トン)し、2050年時点で90%(年間2,500万トン)を合成メタンに置き換える予定です。残り10%はH2の直接利用などによってカーボンニュートラル化し、2050年時点で現在のLNG価格と同水準を目指す方針が政府によって示されています。
※1出典:経済産業省資源エネルギー庁「ガスのカーボンニュートラル化を実現する「メタネーション」技術」
※2出典:経済産業省「次世代熱エネルギー産業」
メタネーション技術によって得られる効果・メリット
以下は、メタネーション技術によって得られる効果・メリットです。
- 地球全体のCO2排出量が抑制され、環境負荷の低減につながる
- 2050年までのカーボンニュートラル達成に役立つ
- e-メタンは既存インフラで供給可能
それぞれに関して詳しく説明します。
地球全体のCO2排出量が抑制され、環境負荷の低減につながる
合成メタンの燃焼で生じるCO2を再回収して、再度、メタネーションを実施すれば、供給量と排出量が相殺されます。つまり、メタネーションのプロセス・サイクルでは、CO2排出量は実質ゼロです。
CO2の排出量が増えると地球が温暖化し、異常気象や生態系の変化、海面上昇などが生じ、農作物の生産量が減って食糧危機が起こる可能性も指摘されています。メタネーション技術を活用すれば、地球全体のCO2排出量が減少し、温暖化の進行が抑制され、環境負荷が低減するでしょう。
2050年までのカーボンニュートラル達成に役立つ
日本政府は、2050年までのカーボンニュートラル達成を宣言しています。なお、カーボンニュートラルとは、温室効果ガス(CO2など)の排出量から、吸収量・除去量を差し引いた数値(実質的な排出量)がゼロの状態です。
メタネーションによって、ガスの燃焼で生じるCO2の排出量削減が進めば、少なくとも都市ガスのカーボンニュートラルは実現できる可能性があります。その結果、国全体でのカーボンニュートラルを目指す取り組みに大きく貢献できるでしょう。
e-メタンは既存インフラで供給可能
都市ガスの原料である天然ガスの主成分はCH4です。そのため、天然ガスをe-メタン(合成メタン)に置き換えても、都市ガスのインフラ(導管などの設備・機器)を引き続き利用できます。
メタネーション技術を活用すれば、追加投資コストが抑えられ、消費者に負担をかけず、スムーズに脱炭素化を推進可能です。
メタネーションの普及目標
日本政府は、「エネルギー基本計画 」(2021年10月公表)で、メタネーションの普及目標を示しています。具体的には、2030年までに、既存インフラへ合成メタンを1%注入し、それ以外の手段も含めてガスの5%をカーボンニュートラル化する予定です。そして、2050年までには、合成メタンを90%注入し、それ以外の手段も含めてガスのカーボンニュートラル化達成を目指します。
また、2050年までに合成メタンを2,500万トン供給し、現在のLNG価格と同水準の合成メタン価格を目指すことも、現時点の政府方針です。目標を実現するために、メタネーション設備の大型化・高効率化に向けて技術開発に取り組むことや、海外サプライチェーンの構築を進めることも「エネルギー基本計画 」に記載されています。
メタネーションの実用化に向けた企業の取り組み・挑戦
以下は、メタネーションの実用化に向けて取り組んでいる企業の例です。
- 日立造船株式会社
- 伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
- 東京ガス株式会社
- 大阪ガス株式会社
- 株式会社IHI
- 横河電機株式会社
各企業の取り組みをご紹介します。
日立造船株式会社
日立造船株式会社では、独自にメタネーション用の高性能触媒を開発し、研究開発用の小型装置を製造しています(1時間あたり0.1N㎥※から数十N㎥まで、得意先のニーズに応じて装置を提供)。
また、2018年から2022年までの期間、環境省委託事業として、神奈川県小田原市の清掃工場に1時間あたり125N㎥の生産能力を有するメタネーション設備を建設し、実証運転を実施しました。
※N(ノルマルまたはノーマル):標準状態(0℃・1気圧)の意味(1N㎥とは0℃・1気圧に換算した1㎥のガス量)
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社は、ITで材料開発を効率化する「マテリアルズ・インフォマティクス」に強みがある企業です。なお、鉄鋼製造業や一般製造業、ガスを中心としたエネルギー分野の企業に向けて、メタネーションに関するシミュレーションサービスも提供しています。
CH4の生成効率を向上させる触媒の設計や、CO2を多く回収可能な吸着材の開発(機能的な材料組成の探索)を支援してくれることが魅力です。
東京ガス株式会社
東京ガス株式会社ではJAXAなど他の研究機関とも連携しながら、以下に示す3種類の革新的メタネーション技術を研究・開発しています。
- ハイブリッドサバティエ
- PEMCO2還元技術
- バイオリアクター技術
製造コストが低減され、e-メタンの実用化・普及拡大につながることが期待されます。
大阪ガス株式会社
大阪ガス株式会社では、国立研究開発法人産業技術総合研究所とともに革新的メタネーション技術のひとつであるSOEC共電解の研究開発に取り組んでいます。合成メタン製造コストの大幅な低減が期待される技術であり、研究開発期間は9年間(2022年度から2030年度まで)の予定です。
また、株式会社INPEXと共同で、2021年からメタネーション実証事業を開始しました。2023年には、家庭用1万戸分に相当するメタネーション設備の建設に着手しています。2025年からは、INPEX長岡鉱場から回収したCO2を用いてe-メタンを製造し、都市ガスパイプラインに注入する実証実験を開始する計画です。
株式会社IHI
株式会社IHIは、2022年10月に、1時間あたり12.5N㎥のe-メタンを製造可能な小型メタネーション装置の販売を開始しました。また、大型化にも取り組んでおり、数千~数万N㎥/hの合成能力を有するメタネーション装置を国内外で2030年までに商用化する予定です。
さらに、設備の運転データから算出したCO2排出・削減量をブロックチェーン技術によって記録・可視化し、環境価値に変換して外部市場に流通させるサービスも展開しています。e-メタンの環境価値が定量化・デジタルアセット化され、メタネーションの社会実装促進に役立つでしょう。
横河電機株式会社
通常のメタネーションではCO2とH2を、化学触媒を用いて反応させてe-メタンを合成します。熱源が必要であり、一定のエネルギーを消費しなければ、e-メタンを生産できません。
よりエネルギー消費が少ないメタネーションを実現するために、横河電機株式会社では、微生物(CH4生成菌)を用いた研究を実施中です。具体的には、同社が有するレーザー分析技術でCH4生成の経時変化を測定したり、pHセンサーなどで培養環境を測定したりしています。
メタネーションの課題・デメリット
以下は、メタネーションの課題・デメリットです。
- 現状ではe-メタンの生産コストが高く、都市ガスよりも高価格
- 環境付加価値を可視化する制度を整備しなければならない
- e-メタン生成設備を大規模化する必要がある
それぞれに関して詳しく説明します。
現状ではe-メタンの生産コストが高く、都市ガスよりも高価格
完全な脱炭素化を実現する場合、原料に「グリーン水素」を使用しなければなりません。グリーン水素は、再生可能エネルギー由来の電力で生産されます。そのため、大量かつ安定的に調達しにくく、現段階ではコストがかさみやすいことが課題です。
加えて、現状ではe-メタンの生産コストも大きいため、メタネーションで得られるe-メタン(合成メタン)の価格が都市ガスよりも高く、価格競争で勝てないことがデメリットとして挙げられます。
また、合成メタンの生成には、グリーン水素の調達コスト以外に、設備コストやCO2調達コストもかかることにもご留意ください。グリーン水素やCO2を大量かつ安定的に供給する体制を確立しなければなりません。なお、2021年6月に「メタネーション推進官民協議会」が発足しており、様々な取り組みが加速しつつある状況です。
環境付加価値を可視化する制度を整備しなければならない
e-メタン(合成メタン)は、燃焼エネルギーとしての価値以外に、CO2排出量削減などの環境付加価値も有します。しかし、現状では環境付加価値が充分に可視化されていないため、燃焼エネルギーとしての価値のみで判断されてしまうケースが多数です。ライフサイクル全体で環境付加価値が可視化され、社会全体で適切に評価される状況になれば、e-メタンの利用が拡大するかもしれません。
2018年に日本で非化石価値取引市場が導入され、電力の環境付加価値を顕在化させて取引可能な仕組みが構築されました。e-メタンに関しても、同様の制度が構築されることが望まれます。
e-メタン生成設備を大規模化する必要がある
生産設備の大規模化も課題です。本格的な商業運用を開始する場合、1時間あたり1万~6万N㎥の合成メタンを生成しなければならないといわれています。
海外では、1時間あたり数十~数百N㎥の合成メタン生成を実現している事例もあります(フランスの「Jupiter1000プロジェクト」やドイツの「Audi e-gasプロジェクト」)。しかし、商用水準の生産量には達していないため、今後設備をスケールアップし、大量生産が可能な体制を整える必要があるでしょう。
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開催地域 |
開催場所 |
日程 |
東京 |
幕張メッセ |
2024年10月29日(火)~31日(木) |
大阪 |
インテックス大阪 |
2025年5月14日(水)~16日(金) |
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革新的メタネーション技術でカーボンニュートラルの実現へ
近年、革新的メタネーション技術が複数登場し、メタネーションの実用化に向けて、様々な取り組みが進行中です。工場など、CO2を排出する施設を保有・稼働している企業で働いている方は、カーボンニュートラルを実現するために、メタネーションに関して理解を深める必要があります。
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【監修者情報】
▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入と併せて分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」他資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他