高機能素材 Week
2025年11月12日(水)~14日(金)
幕張メッセ

グリーン水素とは?
注目される理由や、将来性と課題、普及に向けた取り組みをご紹介!

企業などで脱炭素やカーボンニュートラルに取り組んでいる方は、1度は「グリーン水素」の単語を見聞きした経験があるでしょう。しかし、「正確な意味を把握できていない」とお悩みの方がいるかもしれません。

本記事では、グリーン水素に関して詳しく解説します。グリーン以外のカラーで表現される水素があることや、グリーン水素が注目されている理由、将来性と課題、普及に向けた取り組みもご紹介するので、ぜひ参考にしてください。

グリーン水素とは  


グリーン水素とは、再生可能エネルギーを利用して生産される水素の呼称です。具体的には、再生可能エネルギー(風力・水力・太陽光など)に由来する電力を使用し、水を電気分解(電解)して得られます。燃焼時だけではなく、製造過程でもCO2(二酸化炭素)などの温室効果ガスが排出されないため、環境に悪影響がおよびません。

なお、「グリーン」は、あくまでも分類上の表現です。実際の水素は無色であり、色が付いているわけではありません。

グリーン以外のカラーで表現される水素もある  


ブルー水素やグレー水素など、グリーン以外のカラーで表現される水素も存在することにご留意ください。以下、それぞれの意味(グリーン水素との違い)をご紹介します。


ブルー水素

ブルー水素とは、化石燃料(石油・天然ガス・石炭など)を利用して生産される水素のうち、製造過程でCO2が回収・貯留され、大気中に排出されないものに対する呼称です。なお、「改質」(化石燃料を燃焼させてガスにした上で水素を取り出す方法)によって生産される水素は、製造過程でCO2が発生しますが、CO2は回収・貯留されるため、大気中のCO2は増加しません。

大気中にCO2が排出されない点は、グリーン水素と共通です。ただし、製造方法に違いがあり、回収したCO2を地中に貯留し続ける必要がある点が異なります。回収されたCO2に関しては、CCS(地中深くへの貯留・圧入)やCCUS(地中深くへの貯留・圧入および利用)による対応も検討されています。


グレー水素

グレー水素とは、化石燃料を利用して生産される水素のうち、製造過程でCO2が回収されず、大気中に排出されるものに対する呼称です。ブルー水素と同様に「改質」で生産されます。

燃焼時にはCO2が発生しないものの、製造過程でCO2が排出される点がグリーン水素やブルー水素と異なることにご留意ください。カーボンニュートラルの観点からは、完全な意味でのクリーンエネルギーとは認められません。

現在、産業で(燃料電池自動車の燃料用などとして)利用されている水素は、主にグレー水素です。具体的には、石油精製プロセスや石油化学プロセス、製鉄所のコークス製造プロセスなどから副生水素として生産され、抽出されます。


グリーン・ブルー・グレー以外の水素

下表に、グリーン・ブルー・グレー以外のカラーで呼称される水素の概要をまとめました。

呼称

概要

  • イエロー水素
  • ピンク水素
  • パープル水素
  • レッド水素
  • 原子力由来の電力によって水を電気分解して生産される水素
  • イエロー、ピンク、パープル、レッドといったカラーで表現される
  • 製造時にも燃焼時にもCO2は排出されないが、発電所から放射性廃棄物が発生
  • ターコイズ水素
  • 天然ガスの主成分であるメタンの熱分解によって製造される水素
  • 製造過程で発生する炭素を固体化し、CO2を空気中に排出しないことが特長(プラズマ熱分解によって実現)
  • 副生物として生成される固定炭素が燃料として活用される可能性があるため、グリーンとブルーの中間に位置付けられる
  • ゴールド水素
  • 枯渇した油井内の微生物を発酵させることによって生成される水素、または、地下に埋蔵された天然水素
  • オーストラリアの南オーストラリア州に存在すると期待されており、多くの企業が採掘に乗り出している
  • ホワイト水素
  • 天然に存在する水素
  • 最近は天然水素と呼ばれることが多い

水素のカラーは法律や条約などで定められているわけではないため、複数の表現が使用される場合があります。また出典によって色の表現が異なることもあるため、文脈を踏まえて何を意味するのかを判断しましょう。

グリーン水素が注目される理由  


以下は、グリーン水素が注目される理由です。

  • カーボンニュートラルの実現に役立つため
  • 電力の需給調整の手段として活用可能なため

それぞれに関して詳しく説明します。


カーボンニュートラルの実現に役立つため

昨今、自動車のCO2排出量を減らす取り組みが、国際的に広まっています。なお、カーボンニュートラルな燃料電池自動車を走行させるためには、グリーン水素が必要です。

どのカラーの水素であっても、利用する際にはCO2は発生しません。しかし、グレー水素などの場合は製造過程でCO2を排出するため、CO2排出ゼロを目指すカーボンニュートラルに対応できません。

カーボンニュートラルの観点では、グリーン水素が優れています。グリーン水素の場合、利用時でも製造過程でもCO2が排出されません。環境に無害であり、自動車・飛行機・船舶などの動力としても利用可能なことがメリットです。


電力の需給調整の手段として活用可能なため

太陽光発電や風力発電では、しばしば余剰電力が生じます。余った電力を有効活用して水を電気分解し、「グリーン水素」の形で蓄えておけば、エネルギー源が必要になったタイミングで利用でき、別の場所に運搬も可能です。

なお、余った電力を有効活用するには、蓄電や揚水発電によって電力の需給を調整する選択肢もあります(太陽光発電による余剰電力で水を山上のダム湖に汲みあげた上で、日没後に水力発電を実施)。

揚水発電に適さない場合は、蓄電池やグリーン水素の生産による需給調整を検討するべきです。生産設備があれば揚水発電に不適な地形でも製造可能なことも、グリーン水素のメリットとして挙げられます。

燃料・製造プロセスから工場全体に至るまであらゆる脱炭素技術が一堂に集結する「素材工場の脱炭素化展」は、カーボンニュートラルに向けて取り組む企業におすすめです。


グリーン水素の将来性と課題  


近年、世界各国でグリーン水素に関する戦略・指針の策定が進んでおり、将来性が期待されています。ただし、広く利用されるためには、製造コストの低減が課題です。以下、グリーン水素の将来性および課題に関して詳しく説明します。


世界各国でグリーン水素に関する戦略・指針が策定されている

近年、日本だけではなく、世界各国で国家戦略・指針が策定されています(日本政府の戦略は後述)。下表に、主要国およびEUの戦略・指針・施策をまとめました。

ドイツ

  • 2020年に「国家水素戦略」を策定
  • 水電解装置の規模を2030年までに5GWまで拡大する
  • グリーン水素生産に適した地域(アフリカなど)との連携を目指す

フランス

  • 2020年に「国家水素戦略」を策定
  • 水電解による水素生産セクターの創出と製造業の脱炭素化を目指す
  • 2030年までに6.5GWの水電解装置設置を目標として掲げる

イギリス

  • 2021年に「グリーン産業革命のための10項目の計画」に基づき、水素戦略を発表
  • グリーン水素とブルー水素を大量生産する計画を示している(2030年までに5GWの水素生産能力を開発する予定)

EU

  • 2020年に「欧州の気候中立に向けた水素戦略」を発表
  • 「クリーン水素アライアンス」を立ち上げ、投資を促している

アメリカ

  • 2020年に「水素プログラム計画」を策定
  • 水素の製造、輸送、貯蔵、変換、応用技術に関する方向性を明示

※出典:山梨県「グリーン水素とは?将来性や山梨県における取り組みについて解説」
※出典:東京都産業労働局「東京H2水素ビジョン」

国際的な潮流を踏まえると、今後、世界中で水素エネルギー設備やグリーン水素の技術開発が進むことが予想されます。


広く利用されるためには、製造コストの低減が求められる

グリーン水素のデメリットは、製造コストが高いことです。大量の電気を使用し、水を電気分解して生産されるため、ブルー水素の3~8倍程度のコストがかかります。グレー水素との競争に価格面で打ち勝つためには、製造コストを低減しなければなりません。

なお、2015年から2020年までの期間に、グリーン水素の製造コストは40%程度低減しました。今後、技術革新によって一層のコストダウンが達成される可能性は充分にあるでしょう。低コスト化が実現すれば、グリーン水素市場が拡大し、一般家庭での利用が進み、水素ステーションの普及も期待されます。

燃料・製造プロセスから工場全体に至るまであらゆる脱炭素技術が一堂に集結する「素材工場の脱炭素化展」では、カーボンニュートラルに向けて取り組む企業におすすめです。


グリーン水素の普及・利用に向けた取り組み  


以下は、日本国内でグリーン水素の普及・利用に向けた取り組みの一例です。

  • 水素基本戦略
  • 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略
  • 福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)
  • やまなし・ハイドロジェン・エネルギー・ソサエティ
  • 旭化成株式会社によるグリーン水素製造施設建設

それぞれに関して詳しく説明します。


水素基本戦略

2017年12月に日本政府は、世界初の「水素基本戦略」を策定し、2023年に改定しました。

水素基本戦略は、2050年を視野に入れ、官民が共有すべき方向性・ビジョンや実現するための行動計画をまとめた文書です。グリーン水素に関しても言及されています。


2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略

経済産業省は、関係省庁と連携して「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定しました(具体化した内容を2021年6月に公開)。

グリーン水素を用いたメタネーションのコスト低減など、様々な戦略・構想が示され、2030年までにグリーン水素やブルー水素の供給量を年間42万トン以上にすることを目標として掲げています。


福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)

NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、2020年3月に開所した「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」で、太陽光発電による水素製造の実証実験を遂行中です。

具体的には、水電解装置の大型化などを通じて、低コストなグリーン水素製造技術の確立を目指しています。電力の需要量や供給量のデータに基づき、柔軟に水電解装置を稼働して製造量を最適化する「エネルギーマネジメントシステム」の実証も実施中です。また、2024年5月からは、東京都江東区の水素ステーションで、FH2Rで製造されたグリーン水素の供給が開始されました。


やまなし・ハイドロジェン・エネルギー・ソサエティ

やまなし・ハイドロジェン・エネルギー・ソサエティ(H2-YES)は、グリーン水素によるエネルギー需要転換と水素製造技術の開発を推進するプロジェクトを実施しています。なお、H2-YESは、山梨県と、以下に示す8つの企業によるコンソーシアムです。

  • 東レ株式会社
  • 東京電力ホールディングス株式会社
  • 東京電力エナジーパートナー株式会社
  • 日立造船株式会社
  • シーメンス・エナジー株式会社
  • 株式会社加地テック
  • 三浦工業株式会社
  • ニチコン株式会社

H2-YESでは、カーボンニュートラル社会を実現するために、固体高分子型水電解による製造技術の開発や、グリーン水素の需要拡大に向けて積極的に取り組んでいます。


旭化成株式会社によるグリーン水素製造施設建設

旭化成株式会社には、2027年の実証運転開始を目指して、マレーシアでグリーン水素製造施設を建設する計画があります。2023年11月には、マレーシアのGentari Hydrogen Sdn Bhdおよび日揮ホールディングス株式会社と覚書を締結しました。

なお、旭化成株式会社は、上述した福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)の実証実験にも参加しています。福島での経験を活かして、マレーシアで大規模アルカリ水電解システムを運用する予定です。

「素材工場の脱炭素化展」でカーボンニュートラルに関する情報の収集を!  


RX Japanが主催する展示会「素材工場の脱炭素化展」は、鉄鋼、化学、窯業・セメント、紙・パルプ、非鉄金属などの素材工場の脱炭素化に特化した専門展です。燃料・製造プロセスから工場全体に至るまであらゆる脱炭素技術が一堂に集結します。

下表に、開催地域・開催場所・日程をまとめました。

開催地域

開催場所

日程

東京

幕張メッセ

2024年10月29日(火)~31日(木)

大阪

インテックス大阪

2025年5月14日(水)~16日(金)

「素材工場の脱炭素化展」の詳細はこちら
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将来性や課題を理解した上でグリーン水素の製造・活用を  


グリーン水素の利用拡大は、カーボンニュートラルの実現につながります。将来性や課題を理解した上でグリーン水素を製造・活用しましょう。

なお、グリーン水素の活用を検討しているのであれば、RX Japanが主催する展示会「素材工場の脱炭素化展」にご来場の上、情報を収集してはいかがでしょうか。当展示会は鉄鋼、化学など素材工場の脱炭素化に特化しているので役立つ情報があるでしょう。

「素材工場の脱炭素化展」詳細はこちら

 

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【監修者情報】

▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)

肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授

プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入と併せて分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」他資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他