高機能素材 Week
2025年11月12日(水)~14日(金)
幕張メッセ

素材業界でも利用される「遠心分離機(遠心機)」とは?
仕組みや工程などを徹底解説!

「遠心分離機(遠心機)」は、素材業界をはじめとして、化学・医薬品など、多種多様な分野・領域で活用されます。装置の操作に直接携わっていない方であっても、各種素材を製造している企業などで勤務していれば、1度は名称を見聞きした経験があるでしょう。しかし、「仕組みなどの詳細を把握できていない」とお悩みの方がいるかもしれません。

本記事では、遠心分離機に関して詳しく解説します。仕組みや利用される分野・領域、工程、運転方式ごとの特徴もご紹介するので、ぜひ参考にしてください。

遠心分離機(遠心機、Centrifuge)とは  


遠心分離機とは、液体試料や液体中に固体成分が分散した試料を高速回転させることにより、遠心力を用いて、密度・粒径の差を利用して成分(互いに溶け合わない液体成分同士、または、液体成分と固体成分)を分離・沈降させる機器です。「遠心機」とも呼ばれ、英語では「Centrifuge」と表記されます。

なお、遠心力とは、回転する物体に生じる外向きの力です。密度に差がある成分が混ざった試料(例えば、水と油が混ざった液体)は、長時間放置しているだけでも分離・沈降する場合がありますが、通常重力の1Gによる分離・沈降なので時間がかかります。しかし、機械的に回転させ、1Gを超える遠心加速度を与えれば、分離・沈降するまでに要する時間を短縮可能です。


重力・遠心力を用いた分離操作の種類

分離操作は、重力を用いる「重力沈降」と、遠心力を用いる「遠心分離」に大別可能です。さらに、遠心分離は、「遠心沈降」と「遠心濾過」に分類されます。

重力沈降とは、密度に差がある成分が含まれたサンプルを放置し、重力によって密度の大きい成分を沈降させる操作です。例えば、バケツに泥水を入れてしばらく放置し、下部に泥・砂などを沈殿させるケースが該当します。

遠心分離とは、サンプルが入った容器を機械で高速回転させて、重力よりも大きな遠心力を加え、短時間で成分を分離・沈降させる操作です。遠心沈降の場合、沈降させるだけで濾過は実施しません。遠心濾過では、濾過によって液体成分を除去し、固体(濾過材の目よりも大きな粒子)のみを取り出します。

遠心分離機(遠心機)の仕組み  


以下、工業用遠心分離機(遠心沈降機と遠心濾過機)の基本的な仕組み、および、高速回転する遠心分離機に搭載される冷却機能などをご紹介します。


遠心沈降機の仕組み

液体成分中に固体成分が分散したスラリー状の試料を機器内部の回転体(バスケット)にセットし、一定時間、高速で回転させて加重重力を加えます。

遠心力によって次第に密度の大きい成分が壁面側に移動するので、成分ごとにパイプなどで外部に排出させて回収可能です。遠心沈降機による分離は、固体成分の粒径が小さく、濾過分離が困難な場合に適しています。


遠心濾過機の仕組み

遠心濾過機の場合、回転体に穴が開いていて、濾過材(布や金属などのフィルター)が取り付けられています。

試料を回転体にセットして高速回転させると、遠心力によって固体(濾過材の目よりも大きい粒子)と液体(および濾過材の目よりも小さい粒子)を分離可能です。なお、液体成分が抜け切った粉状の物体は「ケーキ」と呼ばれます。


高速回転する遠心分離機には冷却機能なども搭載

高速回転する遠心分離機の場合、対策を講じなければ、摩擦熱で内部の温度が上昇します。例えば、細胞・DNA・酵素などを含むサンプルは、熱に弱く、高温状態で変性します。

そのため、高速回転する遠心分離機には、冷却したり、真空状態にして空気との摩擦を低減したりする機能が搭載される場合があります。熱に弱い試料を取り扱う場合は、冷却機能などの有無をチェックした上で機器を選定することが重要です。


株式会社堀場製作所の「Parica CENTRIFUGE 遠心式ナノ粒子解析装置」は、原液~希薄試料まで精密な粒子径分布測定を実現。粒子をサイズごとに分級しながら測定する遠心沈降法の特徴により、高精度・ワイドレンジの測定結果が一度に得られます。
少ない異物や凝集も見逃さない高い分解能で少ない粗大粒子も捉えられ、粒子径分布の幅・分布の裾まで信頼できる測定結果が得られます。

「高機能素材 Week」では、高速回転する遠心分離機の情報が多数展示されます。ほかにも材料の製造加工機械、検査・測定・分析機器などが一堂に集結するため、各業界の研究・開発・設計・製造担当者の方におすすめの展示会です。

遠心分離機(遠心機)が利用される分野・領域(主な用途)


以下、遠心分離機が利用される分野・領域(主な用途)代表例をご紹介します。下記以外にも多種多様な分野・領域で活用されることにご留意ください。


化学・素材

化学・素材業界では、各種樹脂材、塗料・顔料、金属粉、ガラス粉末、紙など、多種多様な物質・材料の分離プロセスで遠心分離機が活用されます。機器ごとに対応している物質・材料の種類が異なるので、各メーカーの公式サイトなどで詳細をご確認ください。

なお、株式会社IHIは、数値流体解析による理論的検討を経て、省エネタイプの遠心分離機を開発し、市場に供給しています。製造現場で消費するエネルギーが減少すれば、社会全体の脱炭素化(カーボンニュートラル)実現につながるでしょう。

※出典:株式会社IHI「省エネ化「 デカンタ 」はレトロフィットにも対応」
※出典:経済産業省関東経済産業局「カーボンニュートラルに向けた徹底した省エネの取組(施策紹介)」


三洋貿易 株式会社の「ディスク遠心式 粒子径分布測定装置 CPS Disc Centrifuge DC24000UHR」は、沈降速度差によってサイズごとに分級してから検出する「頻度別沈降法」を用いています。
クロマトグラフィーに似た原理により、他の粒子径分布測定装置には見られない驚異的な分解能が実現できます。

「高機能素材 Week」では、遠心・沈降によって分析する装置が多数展示されます。ほかにも材料の製造加工機械、検査・測定・分析機器などが一堂に集結するため、各業界の研究・開発・設計・製造担当者の方におすすめの展示会です。


医薬品

医薬品を製造する際は、有効成分の抽出工程で遠心分離機が欠かせません。また、血液製剤を製造する場合は、血液成分の分離作業で遠心分離機が利用されます。

GMP(Good Manufacturing Practice)に対応可能な遠心分離機も流通しているので、ぜひご活用ください。GMPとは、原材料の入庫から製品の製造・加工、出荷に至るまでの全過程で、製品が適切かつ安全に作られ、一定の品質が保証されるように、事業者が遵守しなければならない基準です。


農業・バイオ

農業・バイオ分野でも、遠心分離機が利用されます。例えば、サトウキビから砂糖を製造するプロセスでは、遠心分離機の利用が欠かせません(産地の原料糖工場、および、消費地に近い精製糖工場の両方で使用)。

また、農薬の精製や肥料の製造、培養液に分散して存在する各種菌体を分離するプロセス(固液分離工程)などでも、遠心分離機が不可欠です。なお、脱炭素化・カーボンニュートラルの実現に役立つ「メタネーション」に関して、メタン菌を用いた手法が開発中ですが、実験で遠心分離機が使用されます。

遠心分離機(遠心機)の工程  


以下は、遠心分離機(遠心濾過器)の工程(大まかな流れ)です。

  1. 回転体(バスケット)内に濾過材を装着し、装置を起動する。
  2. 給液工程の必要回転数まで加速し、給液パイプから試料を給液する。
  3. 回転に伴って試料が濾過され、分離された濾過液がバスケット外に排出(脱液)され、固形物(ケーキ)がバスケット内壁に付着・堆積する。
  4. あらかじめ設定された時間、バスケットが回転すると、脱液工程が完了する。
  5. 脱液完了後、必要に応じて固形物を水・溶剤で洗浄する。
  6. 洗浄後、バスケットの回転速度を落とし、掻き落とし装置を起動する。
  7. 掻き落とし用の器具(スクレーパー)を固形物に食い込ませて搔き取る。
  8. 掻き落とされた固形物を回収する。

詳細は、各メーカーの公式サイトや仕様書・取扱説明書などでご確認ください

運転方式の種類ごとにメリット・デメリットや用途をご紹介  


遠心分離機の運転方式は、以下の2種類に大別可能です。

  • バッチ式
  • 連続式

以下、各方式のメリット・デメリットや用途をご紹介します。


バッチ式遠心分離機のメリット・デメリットや用途

バッチ式とは、全工程を1サイクルとして都度完了させる方式です。下表に、バッチ式のメリットおよびデメリットをまとめました。

メリット

  • バッチごとに管理してトレース可能
  • 省スペース
  • 状況を確認しながら臨機応変に対応可能

デメリット

  • 処理に時間がかかる
  • 大量生産・大量処理に不向き

例えば、有孔壁型バッチ式遠心分離機は、食品分野では結晶状物質(砂糖や塩など)の脱水・洗浄で、化学工業分野・素材業界では粉末状物質(合成樹脂や顔料など)の脱水・洗浄で用いられます。

無孔壁型バッチ式遠心分離機は、細かい粒子の処理が可能です。そのため、医薬品分野で活用されます(抗生物質・ビタミンの分離・精製など)。


連続式遠心分離機のメリット・デメリットや用途

連続式とは、給液しながら排出する(一連の流れを連続して実施する)方式です。下表に、連続式のメリットおよびデメリットをまとめました。

メリット

  • 大量生産・大量処理が可能
  • 処理時間が短縮される

デメリット

  • 機器のサイズが大きい
  • 臨機応変に対応しにくい
  • トレースが困難(どの工程でトラブルが発生したのかを判断しにくい)

例えば、デ・コーン型連続式遠心分離機およびマルチステージ型連続式遠心分離機は、主に糖類やアミノ酸、樹脂・ポリマー、金属無機化合物、クエン酸、セルロース、塩などの分離・精製で利用されます。なお、デ・コーン型は、遠心沈降機と遠心濾過機の特長を組み合わせたタイプで、マルチステージ型は、角度の異なるバスケットを直列に配置したタイプです。

また、デカンタ型連続式遠心分離機(ボール内にスクリューを備えた遠心沈降機)は、主に排水処理や製造プロセスの固液分離・油水分離で利用されます。連続式遠心抽出機(比重の異なる2液を連続的に分離する装置)の主な用途は、香料の精製やレアメタルの回収などです。

遠心分離機(遠心機)の排出方法  


下表に、分離された固形分(ケーキ、結晶)の代表的な排出方法に関して、メリット・デメリットをまとめました。

排出方法

メリット

デメリット

上部排出型(機器上部から取り出す方式)

  • 全量を回収可能
  • 多品種少量生産に適する
  • 工場の1階に設置可能
  • 自動化に不向き
  • 人力で袋状の布を引き出して排出するため、異物が混入するリスクがある

底部排出型(機器下部から排出される方式)

  • 掻取装置で自動的に機器下部に排出される
  • 人力作業が不要で異物混入リスクを低減可能
  • 1階への設置が困難
  • 全量回収には不向き

吸引型(機器内部に設置されたノズルからの吸引によって排出される方式)

  • 遠心分離機から次工程に空気輸送が可能(異物混入リスクが減少)
  • 1階に設置可能
  • 物質の性質によってはパイプが詰まる場合がある
  • 多品種生産に不向き

ボール型(連続式切削屑脱油用遠心分離機で採用される方式で、ボール型バスケットに切削屑を連続投入することにより、脱油された切削屑が連続的に排出される)

  • 短時間で大量の処理が可能
  • 少量の処理が困難(投入した切削屑に押し出される仕組みであり、処理する切削屑が少なすぎる場合は排出できない)

詳細は、各製品の取扱説明書やマニュアル、メーカーの公式サイトなどでご確認ください。

遠心分離機を探すなら、「高機能素材 Week」がおすすめ  


RX Japanが主催する「高機能素材 Week」は機能性フィルム・プラスチック・セルロース・炭素繊維複合材・金属・セラミックスなどの最先端の素材技術が一堂に出展する世界最大級の展示会です。材料だけではなく、材料の製造加工機械、検査・測定・分析機器など素材産業に関わるあらゆる技術が出展します。

下表に、開催地域・開催場所・日程をまとめました。

開催地域

開催場所

日程

東京

幕張メッセ

2024年10月29日(火)~31日(木)

大阪

インテックス大阪

2025年5月14日(水)~16日(金)

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冷却機能の有無などを比較して、用途に適した遠心分離機の選定を


遠心分離機は、用途を踏まえて選定しなければなりません。製品ごとに、各種樹脂材、塗料・顔料、金属粉、ガラス粉末、紙など、対応している物質・材料の種類が異なることにご留意ください。

熱に弱く、高温状態で変性するサンプル(細胞・DNA・酵素などを含む試料)を高速回転する遠心分離機で分離したいのであれば、冷却機能が搭載された機種を利用するべきです。バッチ式・連続式の別や排出方法の違いも踏まえて慎重に選びましょう。

なお、遠心分離機に関して情報を収集しているのであれば、RX Japanが主催する展示会「高機能素材 Week」に来場してはいかがでしょうか。

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【監修者情報】

▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)

肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授

プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入と併せて分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」他資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他