自動車リサイクル法で決められていること、成立の背景は?
高いリサイクル率を実現
自動車は、金属をはじめリサイクルできる部分も多い製品です。一方で、自動車を構成するものの中には、取り除くのが難しい部分も存在し、かつてはリサイクルを妨げていた要因となっていました。また、こうした背景から、多くの自動車が不法投棄されていた時代もありました。
これらを解決するためにできたのが、自動車リサイクル法です。この法律により、自動車のほとんどの部分がリサイクルされるようになりました。
しかし、自動車のリサイクルにはまだ発展の余地もあります。自動車リサイクルという事業を適切に理解するため、自動車リサイクル法について見ていきましょう。
自動車リサイクル法の意義と押さえておきたい3つのポイント
自動車リサイクル法の正式名称は、「使用済自動車の再資源化等に関する法律」です。そして、第1条には「目的」として、次の条文(抜粋)が書かれています。
「使用済自動車に係る廃棄物の適正な処理及び資源の有効な利用の確保等を図り、もって生活環境の保全及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」
正式名称や条文に書かれている「再資源化」「適正な処理」を行っていくため、自動車リサイクル法ではメーカーやユーザーといった各関係者がそれぞれの役割を担うことが規定されています。また、その取り組みによって資源の有効活用を図っていくのが、法律のつくられた意義です。
具体的な自動車のリサイクルの進め方はどのように定められているのか、3つのポイントに分けて取り上げます。
ポイント1.所有者のリサイクル料金支払い
自動車リサイクル法の施行によって、自動車の所有者はリサイクル料金を支払うことが義務付けられました。後述する自動車リサイクルの阻害要因を適切に取り除いていくためには、費用がかかってしまうからです。
所有者は新車購入時にリサイクル料金を支払い、公益財団法人自動車リサイクル促進センターがリサイクル時に備えてそれを預かります。リサイクル料金は車種によって異なり、6000〜1万8000円程度です。
新車購入時に所有者(購入者)が料金を支払うと、それと引き換えにリサイクル料金を支払った証である自動車リサイクル券がディーラーなどから渡されます。
なお新車は、時間が経つと中古車として売却する場合があるでしょう。このとき、以前の所有者が次の所有者からリサイクル料金を受け取り、それと引き換えに自動車リサイクル券を渡します。
ポイント2.「関係者」の定義
先ほど、自動車リサイクル法では各関係者がそれぞれの役割を担う、と紹介しました。この「関係者」は、次の人、事業者が挙げられます。
- 所有者
- メーカー(および輸入業者)
- 引取業者
- フロン類回収業者
- 解体業者
- 破砕(シュレッダー)業者
以上は、自動車リサイクルを直接的に実行する関係者です。この他にも、阻害要因回収のためメーカーによって組織される一般社団法人自動車再資源化協力機構、すでに名前が出た自動車リサイクルの資金・情報管理を行う自動車リサイクル促進センターが挙げられます。
ポイント3.関係者の役割
次に、それぞれの関係者の役割を見てみましょう。
所有者は、前述のようにリサイクル料金を支払います。それによって、自動車リサイクルの適正な実施を支える存在です。
その他の関係者に触れる前に、押さえておきたいのが自動車リサイクルの「阻害要因」です。自動車を構成するもののうち、フロン類(かつてエアコンに使われていた)、エアバッグ類、シュレッダーダスト(最終的にリサイクルされず残ったものを破砕してできる)は、自動車リサイクルの中でも処理が困難なものとして挙げられます。新車購入時に支払うリサイクル料金も、ほとんどがこれらの処理に使われます。
そこで、関係者の役割も阻害要因と関係してきます。
まず、メーカーは阻害要因の処理に責任を持ちつつ、自動車リサイクル全体を進めていく存在です。また、リサイクルしやすい自動車づくりをすることで、リサイクル率向上を図る役割もあります。
引取業者は、自動車を所有者から引き取り、次の作業を行う業者に引き渡します。
フロン類回収業者は、文字通りフロン類を回収し、メーカーに引き渡し。解体業者は、自動車を解体しエアバッグ類を回収します。エアバッグ類はフロン類と同様、自動車メーカーに引き渡します。破砕業者は、自動車でリサイクルされずに残った部分を、シュレッダーで破砕する役割です。
これらの詳細な作業は、次に取り上げます。
自動車リサイクルのプロセス
自動車リサイクルのプロセスについて、順を追って見てみましょう。
1. 所有者から引取業者に引き渡し
2. フロン類がある場合は引取業者からフロン類回収業者に自動車を引き渡し
3. フロン類を取り除いた自動車は解体業者に引き渡し
4. 破砕業者が引き取りシュレッダー処理
所有者から引取業者への引き渡しでは、所有者が自動車リサイクル券を提示し、引取業者は「自動車リサイクルシステム」というオンラインシステムできちんとリサイクル料金が支払われた自動車であるかを確認。支払われていると分かれば、所有者に「使用済自動車引取証明書」を発行し、フロン類がある自動車はフロン類回収業者へ、そうでない自動車は解体業者へ引き渡します。
フロン類回収業者は、回収したフロン類をメーカーに引き渡し。最終的にメーカーは、環境面で悪影響を及ぼさないよう処理をした上で、これを破壊します。
フロン類が取り除かれた自動車は、解体業者へ引き渡されます。解体業者は、自動車の解体をし、再利用できるものはリサイクルへ回します。そして、阻害要因であるエアバッグ類を回収。回収されたエアバッグ類もフロン類と同様、メーカーが引き取り再資源化施設で処理します。なお、自動車メーカーと委託契約を締結した解体業者の場合、エアバッグを車上で強制的に作動 させることが可能です。いずれも最終的には、素材がリサイクルされます。
このようなプロセスを経て残った部分は、破砕業者が引き取りシュレッダー処理。こうしてできたものはシュレッダーダストと呼ばれ、再利用可能な素材はリサイクルし、そうでない部分はサーマルリサイクル(焼却し、発生する熱を利用)が行われます。
自動車リサイクル法が成立した背景とは
ここまでをご覧になり、自動車リサイクルは制度としてもある程度の完成を見ており、効率的だと感じられたのではないでしょうか。
自動車リサイクルに関する資金や情報を管理する自動車リサイクル促進センターは、こうした日本の制度を「ジャパンモデル」と称し、「世界に誇れる」ものとしてアピールしています。
しかし、自動車リサイクル法施行以前は、リサイクルできる環境が整っていなかっただけでなく、自動車が不法投棄されていた現実があります。
同じく、自動車リサイクル促進センターのウェブサイト によると、法施行前の自動車リサイクル率は80パーセント程度であり、決して低いわけではないものの改善の余地が大いにある状況でした。とりわけ、阻害要因となるフロン類やエアバッグ類の適切な処理ができていませんでした。
それ以上に深刻だったのが、不法投棄です。2003年の環境省の調査によると、自動車の「不法投棄等の台数」と「保管基準違反(野積み)等の台数」を合わせると、17万台近くにも上っていました。
こうした状況から脱却するため、自動車リサイクル法は2002年に成立、2005年に施行されたのです。
なお、経済産業省の資料によると、自動車の不法投棄・不適正保管は2022年3月時点で約5000台です。いまだ「少ない」といえる数字ではありませんが、自動車リサイクル法施行以前と比べれば大幅に改善されたと分かります。
自動車リサイクルに参入するならどのような仕事があるか
自動車リサイクルを将来有望なビジネスの一つとして受け止める人もいるでしょう。参入の余地がありそうな自動車リサイクルの事業分野を取り上げます。
自動車リサイクル法と関連するもの、そうでないものに分けて紹介します。
自動車リサイクル法と関連する事業
自動車リサイクル法の定めによるリサイクルのプロセスで、最終的にシュレッダー処理が行われることを取り上げました。そして発生するシュレッダーダストの中には、サーマルリサイクルされるものがあるのも現実です。
サーマルリサイクルが行われる要因の一つは、ガラスや樹脂などは価値が付きづらいからという側面があります。
よって、これらのリサイクルを可能にし、リサイクル率を上げるソリューションが、自動車リサイクル業界で求められる期待があります。
もう一つ、離島での自動車リサイクルソリューションも求められる可能性がありそうです。離島では自動車リサイクルを行うのが難しい場合があるため、廃車にし輸送する際にはリサイクル料金から補助が出ます。
離島でもある程度のリサイクルに関する作業ができたり、かかる費用を低減できたりすると、自動車リサイクルの進化に寄与するでしょう。
法律面以外でのリサイクルに関する事業
自動車には、耐熱、膨張を防ぐ、耐摩耗などを目的として、さまざまな合金が利用されています。こうした合金をリサイクルする際、元素ごとに分けられればリサイクル後の用途が広がります。
しかし、分離が難しい、不純物を取り除くことが難しいケースがあるのです。こうした課題の解決が求められているといえるでしょう。
それと同様に、レアメタル・レアアースの効率的な回収技術も求められています。特に、近年はハイブリッドカーが普及し、電気自動車(EV)も普及しつつあり、レアメタル・レアアースが以前の自動車よりも利用されるようになりました。
効率的な回収が実現できれば、自動車リサイクルへの寄与だけでなく、あらゆる産業への素材供給安定化につながります。
自動車リサイクルに関するソリューションの実例
実際の先進的な自動車リサイクルに関するソリューションも見てみましょう。2つの事例を取り上げます。
エアバッグリサイクル材(豊通マテックス)
豊田通商グループで繊維と紙を取り扱う豊通マテックス株式会社は、エアバッグリサイクル材を提供しています。エアバッグの繊維は複合素材であり、かつてリサイクルが困難でした。
豊田通商と技術パートナーとの連携により、製造工程の端材、そして廃車後に回収したエアバッグのリサイクルに成功しています。
易解体接着剤(トーヨーケム・東洋モートン)
樹脂素材を開発するトーヨーケム株式会社と接着剤技術を有する東洋モートン株式会社は、120〜160度に加熱することで解体・剥離が容易になる接着剤を車載部品向けに提供しています。
接着の機能をきちんと有しながら廃車となった際は簡単に剥がせることで、リサイクルに貢献する接着剤です。
まとめ|ユーザーも事業者も押さえておきたい自動車リサイクル法
自動車リサイクル法は、リサイクルにおける関係者とその役割を明確に定義しています。そして、円滑なリサイクルを実現していま
関係者には、自動車に乗っていたユーザーもメーカーや解体に関する事業者も、両方が含まれており、どちらの立場の人々も自動車リサイクル法を正しく理解しておくと生活やビジネスに役立つでしょう。これから自動車リサイクルに参入したいという事業者は、ビジネスの視点だけでなくユーザーは自動車リサイクル法をどう受け止めるかという視点を持つと、ヒントが見つかるかもしれません。
また、自動車リサイクルの新たな視点やヒントは、リサイクルテック ジャパンの出展社 からも見つかります。すでにリサイクル事業者である企業も、出展によって自動車業界などこれまでアプローチしていなかった分野でのチャンスが見つかることがあるでしょう。
【展示会情報】
リサイクル テック ジャパン -リサイクルの革新技術・エコシステム構築展-
<大阪展>会期:2025年5月14日(水)~16日(金)会場:インテックス大阪
<東京展>会期:2025年11月12日(水)~14日(金)会場:幕張メッセ
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