リサイクルを考える上で、石油化学産業の動向に注視したりその産業構造を学んだりすることは、有益といえそうだ。

なぜかというと、石油化学産業はプラスチックや樹脂といった材料の出発点であり、プロダクトの品質保持や加工技術の歴史的な蓄積がある。さらに、プラスチックの他、持続可能な航空燃料(SAF)の開発が進むなど、業界としてもリサイクルに積極的であるからだ。

つまり、石油化学産業の世界には、リサイクル分野で必要とされることの先行事例が多々見られる。

今回は、グローバルに活動するシンクタンク・ICISの久戸瀬極(くどせ・いたる)シニアエグゼクティブにインタビューを実施。久戸瀬氏は、ICISに属する前は長年、石油化学業界に身を置いてきた。2回に分けて、世界の石油化学産業とリサイクルについて、聞く。

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【展示会情報】

リサイクル テック ジャパン -リサイクルの革新技術・エコシステム構築展-

<東京展>会期:2026年9月30日(水)~10月2日(金)会場:幕張メッセ      

<大阪展>会期:2026年5月13日(水)~15日(金)会場:インテックス大阪


欧州、中国、そして日韓における石油化学産業の現況

読者の皆様は、石油化学の企業というとどのような具体名が浮かぶだろうか。日本でいえば財閥系の企業が挙がるだろうし、グローバルには石油メジャーの他、ダウ・ケミカルやBASFなどといった企業も思い浮かぶだろう。

もちろん、それは正しいが、石油化学には他の業界でも起こっているのと同じ、ある「波」が到来している。中国企業の大きな成長という波だ。

久戸瀬氏はまず、2025年上半期時点での、世界の石油化学業界について、総論を語る。

「欧州の石油化学産業は伝統もあるため、設備が老朽化しており、閉鎖する事業所も見られる状況です。結果的にリサイクルがうまくいっていないこともありますが、高品質・低価格の製品をつくるのも、難しくなっています。

そこでプレゼンスを発揮しているのが、中国製品です。欧州より新しい設備で大量生産ができる上、中国国内の景気が若干、低迷していることから製品が欧州へと流れています。その結果、欧州域内には安い中国製品が出回り、それが欧州の石油化学産業に打撃を与える状況となっています」(久戸瀬氏。以下、断りない限り同)

こうした状況となっているのは、欧州とアジアの価格差もあるようだ。樹脂など石油化学分野における製品の単価は、欧州で比較的高い傾向にある。反対に、アジアは安価だ。よって、中国を含むアジア企業にとっては、欧州は利幅の取れる市場となる。

「CEFICという略称で知られる欧州化学工業連盟は2024年12月、端的にいえば『このままでは欧州の化学産業が壊滅してしまう、手遅れになる前に行動を』といった趣旨の緊急レポートを発しました。

弱体化が続くようであれば、欧州グリーンディール政策も手詰まりとなってしまいます」

こうした岐路に立たされているのは、日本や韓国の石油化学企業も同じだとも、久戸瀬氏は語る。もっとも、それらは2回目の記事で取り上げるとして、この記事では欧州、米国における石油化学産業と関連するリサイクルについて、触れたい。


欧州のプラスチックリサイクルに関する最新動向
ELVからの再生が大きな課題

以上のように、欧州の石油化学産業は厳しい局面に立たされているが、一方、素材や製品のリサイクルは世界的に求められているから、彼らもその課題に取り組まなければならない。まして、欧州は消費者一人ひとりの環境意識が非常に高いといわれる地域だ。

この点から、欧州の石油化学業界は何がミッションとなっているのか、久戸瀬氏の話を聞いてみよう。

「欧州連合(EU)は、2030年までにすべての包装材をリサイクル可能な設計にするとコミットしています。その上で2030年以降におけるプラスチックの再生材を含有しなければならない比率も定められました。これは、欧州グリーンディール(経済成長とカーボンニュートラルの両方を取り込んだEUの政策)の一環です。

もっとも、欧州グリーンディール政策のさまざまな施策を見ていると、必ずしも順調に進んでいないものもあります。

たとえば、自動車の部品や部材として使うプラスチックは、2030年以降、最低25パーセントの再生材を使うことを目標にする方針でした。しかし、最近はこれを20パーセントかそれよりも低い割合にする方向で議論が進んでいます。

理由として、バンパーなど安全性に関わる部品で再生材の割合を高くすると、事故時に乗っている人への悪影響が否定できないといったことが挙げられます。これはあくまでも一例で、他にもさまざまな理由から再生材の導入が思うように進んでいないのが現実です」

さらに、こうした再生材の割合よりも自動車メーカーを悩ませる課題がある。

「自動車で使用するプラスチック再生材のうち、6.25%をELVから確保しなければならないと定められています。ELVとはEnd-of-Life Vehiclesの略で、ようは廃車のことです。

しかし、ELVからのプラスチックの確保と再生は、そう簡単なことではありません。たとえば、ASR(Automobile Shredder Residue)という廃車をシュレッダー処理したものがありますが、破砕物の中にはガラスやプラスチックや金属など、さまざまなものが混じっています。それらを分解、分別、回収し、そして再利用していくというのは、非常にコストと手間がかかる工程です。」

こうした再生材を利用する割合などは、規則や指令と呼ばれるEUの実質的な法律に当たるもので定められる。社会を動かすためには、法的な枠組みづくりが必要だとは、よくいわれることだ。

しかし、それだけでも事が進まないと、欧州の事例から見て取れる。やはり、企業によるイノベーションや環境へのコミットメントも、枠組みづくりと同様に必要だといえよう。

日本国内の動きとして、2025年6月30日に株式会社デンソー、東レ株式会社、株式会社野村総合研究所、本田技研工業株式会社、株式会社マテック、リバー株式会社は、使用済み自動車(ELV)の自動精緻解体を起点としたCar to Car実現のため、「BlueRebirth(ブルーリバース)協議会」を設立した。動静脈が融合したバリューチェーンの構築を目指している。

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米国の分裂はリサイクルでも

高い壁が立ちはだかりつつもリサイクルを着実に進める欧州に対し、先々どういった状況になるかが見通しづらいのが、米国だ。やはり、第二次トランプ政権が前政権の政策を否定していることが、大きな理由となる。

ここで、久戸瀬氏が語るのが、リサイクルにおける米国の「分裂」だ。

「米国は分裂社会、分断社会と、よくいわれますね。リサイクルや環境問題でも『分裂』があるのです。

リサイクルを積極的に進めようとしているのは東海岸と西海岸。これらは、民主党が強い地方です。

対して、共和党の強い中部は、リサイクルへの積極性はあまり感じられません。リサイクルのため、素材や製品の流通などに何らかの規制をするような州法は、中部ではあまり成立しないのです。

こうした背景もあり、再登板となったトランプ氏は、前大統領のバイデン氏が進めたリサイクル関連の法律をすべてひっくり返してストップさせています」

米国は、現在も環境・リサイクル関連のスタートアップは活動が盛んだが、少なくとも政府からの支援はあまり期待できないのが現状といえそうだ。

では、日本、韓国、そしてこれらと隣接する大国・中国はどうか。次回も、引き続き久戸瀬氏が解説する。

ICIS 久戸瀬氏のご紹介

久戸瀬 極
シニアエグゼクティブ
ビジネスソリューショングループ
ICIS

久戸瀬氏は、東京でICISのビジネスソリューショングループでシニアエグゼクティブをしており、顧客そして市場との対話を積極的に行うことで市場開拓を行っています。定期的に、業界の動向などについて日本・韓国(そしていくつかの東南アジアの会社)で化学会社、商社そして工業会へプリゼンテーションを行っています。彼は、化学業界において30年以上の経験をもっており特に、ポリオレフィン、エポキシ、ウレタン、そしてアクリルモノマーに通じており市場としては自動車、塗料、コンバーター、船舶、工業分野、電気電子をカバーできます。三菱ケミカル(日本)、ダウ・ケミカル日本、Dow USA, Evonik Corp(US), Evonik GmbH,エボニックジャパンで働いた経験があり、職種としてはプラントエンジニア、技術サービス、マーケティング、そして営業の経験があります。

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