前回、中国の石油化学産業の伸張を基軸に、欧米の同業はどう動いているかを語った、ICISの久戸瀬極(くどせ・いたる)シニアエグゼクティブ。とりわけ、環境への意識が高いといわれる欧州でも化学分野のリサイクルの進展には苦労していることが分かる内容だった。前回の記事はこちら>
今回は、日本と韓国の石油化学企業、そしてリサイクルがテーマ。特に今後、日本企業はどう立ち回っていくべきか、気になる方も多いことであろう。この点は、石油化学産業にとどまらず、いわゆる重厚長大産業で共通の課題となりそうだ。
その点での提言もあったので、ぜひご覧いただきたい。
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高品質な日本のプラスチックだからこそ求められる「単純化」
化学産業において、これまで大量生産がされてきたものであり、リサイクルが求められているものといえば、プラスチックであるだろう。前回は欧州のプラスチックリサイクル動向を取り上げた。プラスチックのリサイクルに対する社会的要求があるのは、欧州だけでなく日本を含むアジア諸国も変わらない。
久戸瀬氏は、日本のプラスチックリサイクルには、海外よりも進んでいる側面とそうでない側面の両面があると語る。まずは、進んでいる側面について。
「ペットボトルに関して日本のリサイクルは、進んでいるといえるでしょう。日本のペットボトルのリサイクル率は、85%となっています。欧州でも4割程度ですから、かなり高い数字です。このようにリサイクルが進んでいるのは、ペットボトルメーカーやその需要家が策定するペットボトルの『自主設計ガイドライン』の2001年改訂で、ボトルは無色透明のみと決められたからです」(久戸瀬氏。以下、断りない限り同)
日米欧のリサイクル状況比較|統計データ|PETボトルリサイクル推進協議会
厳密には、ペットボトルはキャップ、ラベル、本体の材料が微妙に異なったプラスチックが用いられている。しかし、本体のペット部分を無色透明としているかどうかは重要であり、リサイクルに大きく影響する。ペットボトルのリサイクルは、ケミカルリサイクルの研究開発が進められているものの、現状ではメカニカルリサイクルが主流だ。メカニカルリサイクルは、繰り返すとボトルの色がくすんでいってしまうという欠点がある。それは、無色透明なペットボトルをリサイクルした場合も同じだが、色が着いていなければ直ちにはくすみにくく品質の高いリサイクル品をつくれる。
一方、これから解決が求められるのが、日本のプラスチック製品が「高品質過ぎる」がゆえの課題だ。
「たとえばペットボトルにしても、日本のものは欧米のものと比べると複雑な構造となっています。A-PETやC-PETと呼ばれる、耐熱性があるペットボトルに使われる素材が存在します。お茶やコーヒーを入れ、温めるために、こうした素材が作られました。海外ではあまり見られない素材です。
また、ペットボトル以外のプラスチックでも、マヨネーズの容器は4層ほどの構造になっています。これは、容器に中身が付きにくく最後まで使い切るためのもの。他、ラップなども多層構造になっています。こうした素材製品はきめ細かな日本ならではのものですが、リサイクルが難しくなるデメリットもある。今後リサイクルのために求められているのは、プラスチックデザインのシンプル化でしょう。」
統合が迫られる韓国企業と日本企業のこれまで
石油化学産業全体についても、見ていきたい。
冒頭でも取り上げたように、中国は石油化学産業の発展も著しい。そこで影響を受けやすいのが、地理的に近い日本と韓国の石油化学企業だ。前回、欧州の石油化学企業が設備の老朽化という課題を抱えていることについて久戸瀬氏から説明があったが、これは日本、韓国の石油化学企業にも共通する課題である。
さらに、収益化が難しくなっているのも欧州企業と同じ。そこで浮かぶのが、企業の統合だ。
「実のところ、日本の石油化学企業はオイルショックの時期など、これまで数回、企業の統合を経験しています。こうした時期には、企業の生産能力が過剰になったことを受け、業界内で自主的に統合が行われてきました。政府からの後押しなどなく、遂行されたものです。
現在の日本の石油化学企業も厳しい状況に立たされていますが、こうした点での対応力はあるといえるでしょう。
一方、韓国の石油化学企業もまた、日本と同じく厳しい状況にあります。そこで、やはり統合が生き残り策の一つとなるでしょう。
先日、私は訪韓し、複数の石油化学企業の経営層にいる人へのインタビューをしましたが、『なぜ日本の石油化学企業は統合ができたのか』としきりに聞かれました。彼らも日本の石油化学産業・企業の過去を知っているからこその質問です」
韓国は日本以上に財閥系企業のプレゼンスが強い。こうした背景もあり、どこかの工場を止めて統合するとなると、話がまとまりにくいのだという。
「それとともに、環境的に企業間のまとまりができやすい側面が、日本企業にはありました。
石油化学企業、というと石油化学コンビナートを思い浮かべる方もいるのではないでしょうか。日本の石油化学コンビナートは、かつては化学企業が複数社いる形で構成されていました。そのため、『うちは規模が小さいので止めますよ』などというように話がしやすい。横のつながりがある状況から、統合が進められたともいえます。」
もっとも、日韓企業が苦戦を強いられる要因である中国企業の勢いは、現状では弱まる気配を見せない。となると、日本の石油化学企業も韓国の石油化学企業も一層、厳しい状況に置かれそうだ。
久戸瀬氏は、こうした石油化学産業のトレンドから日本企業への提言を、最後に語った。
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「稼げない」石油化学産業で日本企業はいかに動くべきか
中国企業の伸張が止まらない中、日本企業が「彼らと喧嘩(競争)しても勝てない」と語る、久戸瀬氏。石油化学産業は装置産業であり、設備が老朽化すれば競争力が低下してしまう。中国企業は別として、石油化学産業が稼げない環境下では新規投資が困難となり、別の生き残り策を採らざるを得ない。
それを前提に、久戸瀬氏は次のように続ける。
「日本の石油化学企業の人々からも、この先やっていけるのはあと4〜5年という声が聞こえてきます。日本企業だけで石油化学産業の中で生き残っていくのは、すでに難しいフェーズに入っているのです。そうなると、海外企業をパートナーとして統合を進めていく選択肢が浮かんできます。その筆頭に挙がる相手は、韓国企業でしょう。
たとえば、サムスンやLGの薄型ディスプレイは世界中で使われていますが、その材料のほとんどは日本の石油化学企業がつくったものです。このように、日本企業と韓国企業はさまざまなところで協業しています。
また、韓国の石油化学企業は日本と比べれば幾分、歴史が浅い。つまり日本の設備よりこの先の寿命が長いということです。1社あたりの生産能力 規模も韓国企業の方が大きく、パートナーとして見ると魅力的な部分が多くあります。そう遠くない将来、日本と韓国の石油化学企業は統合へ向け動き出すと考えています。」
プラスチックや持続可能な航空燃料などのリサイクル製品に関心を持つ読者も少なくないかもしれない。以上の久戸瀬氏の話にもあるように、今後、事業として参入を検討しているならば、業界内の再編がある可能性も覚えておいた方がよさそうだ。
ICIS 久戸瀬氏のご紹介
久戸瀬 極
シニアエグゼクティブ
ビジネスソリューショングループ
ICIS
久戸瀬氏は、東京でICISのビジネスソリューショングループでシニアエグゼクティブをしており、顧客そして市場との対話を積極的に行うことで市場開拓を行っています。定期的に、業界の動向などについて日本・韓国(そしていくつかの東南アジアの会社)で化学会社、商社そして工業会へプリゼンテーションを行っています。彼は、化学業界において30年以上の経験をもっており特に、ポリオレフィン、エポキシ、ウレタン、そしてアクリルモノマーに通じており市場としては自動車、塗料、コンバーター、船舶、工業分野、電気電子をカバーできます。三菱ケミカル(日本)、ダウ・ケミカル日本、Dow USA, Evonik Corp(US), Evonik GmbH,エボニックジャパンで働いた経験があり、職種としてはプラントエンジニア、技術サービス、マーケティング、そして営業の経験があります。
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